大阪・道頓堀で太鼓をたたき続けていた「くいだおれ太郎」が有料でイベントやCMに出演することになった。売却もうわさされていた。
太郎は、食堂「大阪名物くいだおれ」の看板人形だった。太郎を擬人化したマガジンハウス刊の「くいだおれ太郎のつぶやき。」によれば、一九五〇年から店頭で働きはじめ、今年七月八日をもって閉店とともに退職していた。
現役の間には、関西空港開港時にオーストラリアへ旅をし、話題になった。大阪万博会場に出張し、国体の開会式に出席するなどで、通天閣とともに大阪のシンボルと言われるほど全国的に知られた。
それなのに、食堂「くいだおれ」が閉店したのは、道頓堀がすっかり様変わりしたからだ。芝居や演芸などの小屋が次々とたたまれ、洋食や和定食、居酒屋など何でもそろっているような食堂は、時代から取り残された。
岡山などでも全国的なチェーン店の進出によって、地元で長年営んでいた個人経営の飲食店が姿を消している。各地を旅しても、同じような看板が目立つ。極端に言えば、地域固有の文化が大手資本に席巻されているようで、寂しい。
第二の人生を、タレントを目指す太郎は「よろしゅうおたの申します」と意気込む。大阪らしさを守るために、がんばってやとエールを送りたくなる。