来年3月にロンドンで尾上菊五郎らによる歌舞伎「NINAGAWA 十二夜」が上演される。今年5月には中村勘三郎を中心とした「夏祭浪花鑑(なにわかがみ)」の公演がベルリンなどで行われた。歌舞伎の海外公演が始まってから今年で80年。その歴史と意味を探った。【小玉祥子】
「NINAGAWA 十二夜」はシェークスピアの「十二夜」の歌舞伎化作品。蜷川幸雄の演出により、05年7月に歌舞伎座で初演された。尾上菊之助による双子の兄妹の演じ分けや、鏡を使用した装置、斬新な演出が好評で、07年6月には博多座、同7月には歌舞伎座で再演されている。
シェークスピアが作者ということもあり、「初演のころから英国公演を望んでいた」と菊之助は話す。「歌舞伎が日本だけにとどまっているのは惜しい。より多くの人に知ってほしい」
「歌舞伎海外公演の記録」(松竹刊)によれば、初の海外公演は1928年8月のソ連(現ロシア)。二代目市川左団次らにより、モスクワ、レニングラード(現サンクトペテルブルク)で「仮名手本忠臣蔵」「娘道成寺」などが上演された。
演出家のスタニスラフスキー、映画監督のエイゼンシュテインも観劇し、高評価を得た。左団次は「日本の歌舞伎がもっている三百年来伝えられてきた勝(すぐ)れた芸術の力と、ロシアの人々の勝れた芸術鑑賞力とによる」(同書)と成功の理由を記している。
以降、中国、米国、カナダ、ヨーロッパ、韓国、エジプト、東南アジアなど、各地で歌舞伎公演が行われてきた。
78年の豪州公演では、現地紙に「日本の歌舞伎は“旅する大使館”だ。行く先々で日本に栄誉をもたらしている」と賛辞を送られた。だが、言葉も違えば民情も違う。芝居がすんなりと受け入れられるとは限らない。
「ロンドンっ子に江戸っ子の菊五郎の芸風が分かっていただけるのか不安な気持ちです」と菊五郎は語る。「いつもお客さんが『音羽屋』と声をかけて下さる場所で演技しているでしょ。これまでの海外公演では、何をやっても反応がなく、理解してくれているのかと疑心暗鬼になることもあった。カーテンコールになって初めて『ブラボー』の声が起きる。芝居の見方が違うんですよね」
それでも海外に出るのは「日本人の感性を理解し、どんどん日本へ来て歌舞伎を見てもらえたらありがたい」という思いからだ。
果たして、シェークスピアの本場でシェークスピア歌舞伎はどう受け止められるか。公演は来年3月24日から28日までバービカン・シアターで。その後、6月に東京・新橋演舞場、7月に大阪松竹座でも上演される。<月末を除き毎週火曜日に掲載します>
毎日新聞 2008年10月21日 東京夕刊