一つの先発医薬品には、多くの後発品がある。有効成分は同じだが、添加剤、味など他の要素が微妙に違う。安全性や有効性に疑問が生じる場合があり、値段も数倍の差がある。後発品の現状と課題を報告してきた最終回は、情報開示のあり方に迫った。【渋江千春、高木昭午】
コレステロール低下薬の一つには22社の後発品がある。薬価は5ミリグラム錠で約19円から約41円まで。先発品は約66円だ。ある高血圧の薬には7月、34社が後発品を出した。
欧米に比べ日本は製薬会社が多く、後発品の種類も増えやすい。一つの薬局が、各社の後発品をすべてそろえることはまずない。
神奈川県の女性会社員(34)の一家は従来、アレルギーや高血圧など各病院の処方薬を自宅近くの薬局で入手していた。だが最近、この薬局には置いていない後発品を処方されることがある。別の薬局に行かざるを得ない。女性は「信頼できるかかりつけの薬局で、飲み合わせも管理してもらっていた」と嘆く。
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ヘルス薬局(大阪市住吉区)の政田啓子薬剤師は、先発品と後発品を独自の比較表にまとめている。どの薬が良いか、価格だけで選ばないようにするためだ。後発品を作る39社に▽薬の販売後に有効性や安全性を調査する部門の有無▽緊急連絡体制▽薬の添付文書集の有無--など12項目を聞き、100点満点で採点した。約40~約90点とばらついた。
比較表には原則として先発品と、評価の上位2社、それに評価がほどほどで安い1社の計3社の後発品を載せ、製剤の特徴や価格を示している。患者に表を見せ、「お勧めは」と聞かれたら評価最上位の薬を挙げている。3社の中で最安値の薬ではないことが多い。
亀田総合病院(千葉県鴨川市)は独自の基準で薬を銘柄ごとに評価し、入院患者に使う後発品を決めている。
まず大手の後発品会社と、先発品も作る会社の製品を4~8銘柄選ぶ。各社に原料(原薬)の仕入れ先などを聞き、未回答の社の薬は除外する。仕入れ先次第で純度などが微妙に違うからだ。
次に、患者での使用結果や血中濃度の推移、味やにおい、安定供給体制など15項目を聞き、75点満点で採点する。先発品は45点以上の基準を満たすよう作られているはずで、これ未満の後発品は採用しない。半分以上の製品が落ちる。「製薬大手ならば問題なし」とはならない。残った製品から、使いやすい薬を選ぶ。今は後発品約200品目を導入し、年間約2億円を節減した。
基準を作った理由について、佐々木忠徳薬剤部長は「国の認可を得た後発品でも、安心して使うには十分な情報が必要だ。だが、本来ならば最も欲しい患者に使った結果のデータがない」と説明する。
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国は薬の副作用情報を集めているが、銘柄別のデータはない。血中濃度も、健康な人の測定結果はあるが、患者での結果はほとんどない。先発品から後発品に切り替えた後の病状変化も分からない。
福岡大病院循環器科の上原吉就(よしなり)講師は「どの薬が問題か分からないという実態が後発品の普及を妨げている。患者に悪影響が出れば医師は責任を問われかねない」と打ち明ける。不安な場合は先発品を処方し「後発品への変更不可」にしている。
こうした中、沢井製薬(大阪市)は、包装を解いた後に薬が変質するまでの期間や、点滴薬を他の薬と混ぜた場合の変化などを試験し結果を公表している。同様の対応を取り始めた製薬会社も多い。
厚生労働省は製薬会社に情報開示を充実するよう指導を始めた。薬剤師に対しては、「薬ごとに科学的評価を行い患者に勧めてほしい」と呼び掛ける。「後発品同士でも製造工場も添加物も違う」(保険局医療課)というのが理由だ。
しかし、政田さんは「後発品への問題指摘は多いが、ほとんどは会社名を伏せている。薬の溶け方や血中濃度、副作用などを知りたいが、自力で試験する余裕はない。仕方なく会社の体制を調べて比較した」と話す。データ公開に取り組む沢井製薬も「患者データが不要だからこそ後発品は安くできる」と話し、市販後の患者調査については「検討の余地がある」との姿勢にとどまる。
上原講師は「後発品を使った患者の状況を調べ、各社の製品を評価する第三者機関が今こそ必要になった」と訴える。=おわり
毎日新聞 2008年9月23日 東京朝刊