◎八田技師アニメ完成 郷土が生んだ大志に学びたい
台湾で当時東洋一の灌漑(かんがい)ダムと水路網を建設した八田與一技師(金沢出身
)のアニメ映画が完成し、来月中旬から全国に先駆け、金沢で公開されることが決まった。郷土が生んだ偉人に光を当て、功績を顕彰して語り継いでいくことは、そこに住む人たちの誇りや土地への愛着につながり、ひいては地域の魅力を高めることになる。アニメという分かりやすい映像作品であれば子どもたちの格好のふるさと教育となり、八田技師を次の世代へ伝えるこれ以上の媒体はないだろう。
同じ金沢出身の鈴木大拙がそうであるように、海外では有名にもかかわらず、出身地の
人たちが意外と知らないことが多い。だが、郷土の偉人は身近な人生の教科書であり、世界的な業績も故郷の風土と切り離せないことを考えれば、その生き方を知ることはふるさとを見つめ直すことにもなる。
八田技師の地元での足跡はそれほど残っていないが、農家に生まれ、旧制四高に学んだ
金沢での歳月が大志を育んだことは想像に難くない。八田技師を縁にした金沢、石川と台湾との交流強化が期待されているが、まず私たちが映画を通して八田技師を理解し、その生き方に学びたい。
アニメ映画「パッテンライ!」は烏山頭(うさんとう)ダム建設によって不毛の嘉南平
原を穀倉地帯に変えた八田技師の姿を描いた物語である。ヒーローものでも知られる虫プロの作品で土木技術者が取り上げられたのは、当時は実現不可能とみられた壮大なプロジェクトを貫徹させる不屈の精神や大志を抱くことの大切さが時代やジャンルを超えた「ヒーロー像」を意味し、現代へのメッセージ性を持つからであろう。
台湾の馬英九総統は就任直前の五月に烏山頭ダムほとりで営まれた八田技師夫妻の墓前
祭に参列した。親日ぶりを内外にアピールする狙いもあったとはいえ、台湾で「農業の父」として敬愛される八田技師が「親日」「反日」の色分けを超えた大きな存在であることは間違いない。台湾で日本統治時代を知る日本語世代が減り、世代交代が確実に進む中、アニメ映画が日台関係の将来を担う若い世代の懸け橋になることを期待したい。
◎日本が理事国入り 働き掛ける外交に転換を
国連総会で日本が安全保障理事会の非常任理事国に選ばれた。任期は二〇〇九年から二
年間だが、加盟国中最多の十回目の選出である。安保理のメンバーになると、国際情勢の核心にかかわる情報が入手でき、それだけでも有利とされているのだが、十回目となると、情報の入手だけでなく、独自の外交ができるかどうかが問われるだろう。
日本の外交はいまもって「顔が見えない」といわれている。戦後この方、突出した軍事
力を持つ米国のコバンザメのように行動してきたからだ。日米同盟を堅持しながら、独自の主張に立脚して世界を変えていく志を持った「働き掛ける外交」「顔が見える外交」を展開したい。
折から衆院テロ防止特別委員会で、麻生太郎首相はアフリカ東部のソマリア沖で続発し
ている海賊対策として海上自衛隊の艦艇の活用を検討する考えを述べた。他国の船舶をも護衛するには、そのための法律をつくらねばならない。昨年、日本は国際社会における役割を積極的に果たすことをうたった海洋基本法を制定した。この延長線上で立法化へ踏み出したい。
ソマリア沖で海賊が増えたのはマラッカ海峡の取り締まりが強化されてからだ。自国の
豪華帆船がソマリア沖のアデン湾で海賊に襲われたフランスは国連安保理に海賊対策の国際的連合艦隊創設を打診した。日本やロシアなどの船舶も被害に遭っている。国連海洋法条約では航行の安全について、海峡を利用する国と沿岸国とが協力するよう規定されている。マラッカ海峡の安全に関して日本は他国に先駆けて沿岸国へ協力している。その経験をソマリア沖に生かしたい。そうしたことが存在感のある外交につながる。
ここ数年の動きから、国際社会は多極化へ向かっているといえる。北朝鮮の核無能力化
一つをとっても、日米の考えに違いが生じてきた。米国に合わせるという受け身の外交から、米国の考えに影響を与えるような能動的な外交への転換が必要になってきたのだ。海賊対策を「顔が見える」外交への一歩としたい。