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2008年10月20日 (月)

スーパーな はなし

日本人が特に行列好きなのか、どうか。ラーメン屋しかり、TDR(Tokyo Disney Resort)しかり…。人気のあるものは「行列ができるXX」などと言われ、どこかでは確か、「行列のできる特許事務所」だとかなんだとかいう標語(?)もあったような気がする。

▽ しばらく行っていないが、TDRの行列の作り方はよくできていて、行列をいくつもの部屋に分けたりして、行列の長さを感じさせない作りになっている。一方で、特許審査の待ち行列(queue)はほとんど一本道だから、TDRのようによくできてはいない。ただし、一足飛びに行列を飛び越す方法があって…

■ 早期審査
 そういうすっ飛ばしの一つの方策が、早期審査制度である。早期審査は条件さえ満足すれば、2,3ヶ月で一次の審査(ファースト・アクション)が行われる。
 通常の審査待ちが2年ほどかかることに比べれば、2,3月というのは相当に迅速である。順番が入れ替わるだけでそんなに早くなるものかというと、早くなるものなのである。というのは、審査にはそんなに長い時間がかかっているわけではなく、審査待ちの時間が長いだけのことだからである。

■ スーパー早期審査
 というわけで、早期審査だけでも十分早いのであるが、人間の追求は飽くところを知らず(?)、

「もっと早く!」

審査を行うよ、というのが、この10月1日から始まった「スーパー早期審査」である。
 対象となる案件は、

(1)実施関連出願かつ外国関連出願であり、
(2)申請以降のすべての手続をオンライン手続とする出願であり、
(3)国際出願の国内移行出願ではないこと。

というようなわけで、まぁ、ある意味当然ながら、通常の早期審査よりも要件は厳しい。
 ま、そりゃ別にいいのだが、最初のケースについて

「17日に特許査定」

というニュースが入ってきて、口の悪い人に言わせると、

「また、広告を…」

ということになるのだが、広告であろうが何だろうが、制度導入後17日で特許査定が出たというのは十分ニュースであった。

■ 特許庁ウェブサイトによれば、その案件は、特願2007-054284号(特開2008-216061号公報)(出願人:学校法人慶應義塾、発明の名称:ホウ素ドープ導電性ダイヤモンド電極を用いた電気化学的分析方法)というもので、出願自体は、2007年の5月3日(30条適用の案件である)。審査請求は確かに2008年10月1日で、(スーパー)早期審査の要件を具備していることについては14日に報告が出ている。
 即日着手したとして、3日間で審査が終わっているというわけだが(いや、そもそも審判なんかでも合議体が形成された翌日には審決がでているのが普通だから、審査自体は即日で終了しているのだろう、たぶん)、今回の案件のクレイムは補正も要さずに特許になったというわけで、いわゆる「一発登録」である。

■ 一説では(私も支持するけど)、登録は一発でされるべきでなく、拒絶理由の通知を受けて、内容をブラッシュアップするチャンスがあった方がいいという。その意味では、少し早すぎる登録ではある。
 試みに、(おそらく権利になったであろう、公開時の)クレイムを参照してみよう。

【請求項1】 被測定電解質溶液中に作用電極と対電極とを配置し、作用電極に負電位を与えて、前記電解質を前記作用電極の表面に電着させて電着物質を形成し、次いで、前記作用電極の電位を正電位方向にスイープして前記電着物質を前記溶液中に溶出させると共に、電位変化に対する電流変化を検出して前記被測定電解質溶液中に電解質として溶解している被測定物質を分析する電気化学的分析方法において、作用電極としてホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極を使用することを特徴とする電気化学的分析方法。

 単純方法のクレイムで、分析方法だから、一般的には権利が取得できたとして、

「この方法、あなた使ってますね?」

と侵害が疑わしいところへ言いに行きたくても、疑わしいことからしてわかりにくい。使っていることが外からわかりにくいからである(顕現性が低い、というような言い方をする)。
 意地の悪い見方をすれば、そういう顕現性の低いあたり(過誤で特許してもわかりにくいあたり)から宣伝用案件を選んだか、というような言い方ができそうだが、これはさすがに言いすぎで、そもそも拒絶の理由になるような文献が見つけられなかったというものだろう。
 それに、もしかすると(私はこの分野に詳しくないので判断しかねるのだが)、「ホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極」がかなり特殊な部品であるとすれば、そういった部品を購入しているところは「怪しい」と睨むことはできるかもしれない。

■ 今後も平均17日などということはあり得まいが、ファースト・アクション1月以内という目標がどれだけ達成されるものか、平均で何日くらいになるのか、審査の質はどうか、など興味は尽きない。

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