10月20日は「疼痛ゼロの日」、緩和ケアに理解を
「十分な緩和ケアを受けて亡くなる患者は、緩和ケアの必要な患者の一部。ほとんどの患者が痛みを我慢して亡くなっている」―。ジャパン・パートナーズ・アゲインスト・ペイン(JPAP)の代表世話人で、JR東京総合病院院長の花岡一雄氏は訴えた。
JPAPは医療従事者で構成される非営利団体で、「がんの痛み」をはじめとした疼痛治療の正しい知識の普及を目指し、啓発活動を展開している。JPAPではこのほど、10月20日を「疼痛ゼロの日」と定め、前日の19日、東京都内で「イタミヘノ イタワリ モット。」をテーマに市民フォーラムを開催。フォーラムでは緩和ケアに積極的に取り組む医師らが講演し、「医療用麻薬への正しい理解を」「我慢は美徳じゃない」と訴えた。
【関連記事】
看護師が語る米国の急性期緩和ケア
がん基本法は市民主導の医療改革
在宅ホスピスのあり方でシンポ
看取りの場所、「自宅は無理」が半数
差額なしのホスピスケア病棟開設 道内初
従来の緩和ケアに対する考え方について、聖路加国際病院緩和ケア科の林章敏医長は、「緩和ケアとは、治癒を目的とした治療に反応しなくなった患者に対する終末期のケアという意識が強かった」と語る。花岡氏も、「従来の疼痛ケアは、『まず治療をしましょう。その後、緩和ケアをしましょう』というものだった」と話す。 JPAPによると、モルヒネに対する根強い誤解や偏見が、がんの痛みの治療を阻んでいた状況に対し、1980年代後半には、世界保健機関(WHO)が経口のモルヒネを中心とした痛み治療の国際基準を作成しており、「がんの痛みは治療できる症状であり、治療すべき症状である」「痛みからの解放は患者の生きる権利であり、医師の義務である」と訴えている。日本でも、昨年4月に施行された「がん対策基本法」で、「疼痛などの緩和を目的とする医療が早期から適切に行われるようにすること」など、療養生活の質の維持・向上に向けた緩和ケアなどの対策の必要性が指摘されている。
だが、日本では医療用麻薬の活用など、緩和ケアが十分に行われていないのが実情だという。林氏は、「欧米ではがん以外の痛みの治療にも医療用麻薬が使用されるため、単純な比較はできないが、それでも日本の医療用麻薬使用量は極端に少ない」と話す。
また花岡氏は、「疼痛ケアの重要なツールの一つがオピオイド鎮痛薬(医療用麻薬)だが、『最初から使うと、そのうち効かなくなるのではないか』『精神に異常を来すのではないか』『死期を早めるのでは』などという誤解が患者さんの間にある」と、医療用麻薬に対する理解不足を指摘する。
花岡氏によると、人が痛みを感じると、エンドルフィンやエンケファリンなどのモルヒネに似た物質(内在性オピオイド)が脳から分泌され、痛みを和らげる。だが、がん性疼痛などの痛みは、体内でつくられる内在性オピオイドでは抑え切れないほど強く、疼痛に苦しむがん患者に対して体内で不足する分のモルヒネを出しても、「副作用は出にくい」という。「インスリンを必要のない人に打つと毒になるように、モルヒネも必要のない人に打つと毒になる。だが、強い痛みがある人に打つと大きな効果がある。中毒症状や依存性は生じない」と花岡氏。さらに、痛みを取り除くことで、免疫力が強まり、「がん治療の手助けをしてくれる可能性もある」という。
「終末期のケア」と考えられていた緩和ケア。だが現在では、「患者さんが普段の生活をしながら、痛みを取っていくのが基本だ」と林氏は話す。花岡氏も、「手術や検査など治療そのものにも痛みは伴うため、医療用麻薬の使用は、積極的な治療環境づくりに貢献していると思う」。
「我慢は美徳じゃない」(林氏)、「痛みを我慢していたら、がんと向き合えない。我慢しない、させない疼痛治療を目指したい」(花岡氏)。「疼痛ゼロ」に向け、林氏と花岡氏は強い意欲を見せた。
■緩和ケアの提供体制にも課題
患者に対し緩和ケアへの理解を訴える一方で、花岡氏は緩和ケアの提供体制の問題点も指摘。「昨年4月にがん対策基本法が施行され、緩和ケア病棟・ホスピスも増えてきた。だが、緩和ケア専門医や緩和ケアチームの数がまだまだ不足している」と語った。
国立がんセンター中央病院・新逗子クリニックの高橋秀徳医師も、「医療側の緩和ケアの提供体制は2000年以降、整い始めており、以前と比べると、患者が医療者に相談できるようになっている」とする一方で、「現状では、すべての医師が緩和ケアにかかわる研修を受けられるわけではない」と、今後の人材育成に向けた研修体制の未熟さを指摘した。 林氏は、緩和ケア病棟のスタッフなど、専門家による「地域コンサルテーションサービス」の必要性を指摘する。「患者さんが自宅に戻ったとき、患者を支えるのは地域の開業医や訪問看護ステーションのスタッフ、ヘルパーなど、さまざまな地元のスタッフ。ただ、こうした地元の人たちは、必ずしも緩和ケアの専門家というわけではない」と林氏。「そんなときに、われわれが専門家の立場からサポートするような体制が求められると思う」と、今後の課題を語った。
更新:2008/10/20 17:15 キャリアブレイン
新着記事
10月20日は「疼痛ゼロの日」、緩和ケアに理解を(2008/10/20 17:15)
後発品「薦められた経験なし」が8割超(2008/10/20 16:51)
看護の役割拡大に慎重姿勢―日赤看護大の川島氏(2008/10/20 16:30)
注目の情報
PR
過去の記事を検索
CBニュースからのお知らせ
CBニュースは会員サービスの“より一層の
充実”を図るため、掲載後一定期間経過した
記事の閲覧にログインが必要となりました。
今後ともCBニュースをご愛顧いただけますよう、
よろしくお願い申し上げます。
キャリアブレイン会員になると?
専任コンサルタントが転職活動を徹底サポート
医療機関からスカウトされる匿名メッセージ機能
独自記者の最新の医療ニュースが手に入る!
【第33回】小松秀樹さん(虎の門病院泌尿器科部長) 2006年に出版し、ベストセラーとなった『医療崩壊―「立ち去り型サボタージュ」とは何か』は、医療者だけでなく一般市民にも「医療崩壊」という言葉を知らしめた。小松さんが医療の現状を訴えるようになって約5年。「医療の崩壊が続いている。現時点では、医療 ...
1人ひとり 個別の条件を大切に東京勤労者医療会「東葛(とうかつ)病院」(千葉県流山市)ママさん看護師も多数活躍 看護師の厳しい労働実態が指摘され、離職率が新卒で9.3%、全体では12.3%に達するなど、看護師の離職を避ける取り組みが看護現場の重要な課題になる中、「長く働き続けられる病院」が、千葉県流 ...
WEEKLY
もし、病院の印象を劇的に変えることができるとしたら。今回は、そんな夢のようなことを現実にしてしまう「インプレッショントレーニング」をご紹介します。