アサヒ・コム プレミアムなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
政府の途上国援助(ODA)はこれを機に、ぎゅっと引き締まった筋肉体質になってほしいものだ。
国際協力機構(JICA)と国際協力銀行(JBIC)の円借款部門が統合され、装いを新たに新JICAとして発足した。事業規模1兆円を超える世界有数の開発援助機関である。
アフリカでの米栽培からアフガニスタンでの職業訓練、さらにインドでの上水道整備まで新JICAの支援は150カ国以上の国々に及ぶ。
緒方貞子理事長は発足にあたって「すべての人々が恩恵を受ける、ダイナミックな開発」という新ビジョンを掲げた。1600人の職員の奮闘を期待したい。
ODAには技術協力、無償資金協力、円借款の三つの手立てがある。しかし官庁や援助機関の間の縄張り意識が強く、同じ途上国の中で円借款による施設建設と、専門家派遣や研修などの技術協力が別々に行われ、連携は必ずしもうまくいかなかった。
新JICAにそうした惰性を引きずってほしくない。円借款など三つの手立てをうまく組み合わせて、三位一体の援助効果を引き出す必要がある。
例えば、教育や医療のプロジェクトを進める時に、学校や病院の建設と相手側の人材育成の手助けにばらばらに取り組むのではなく、全体を見渡しながら、効果をあげる工夫をすべきだ。
無駄な援助をなくすための努力はさらに強めねばならない。援助の現場を回ると、ODAの削減で無理に小ぶりにした援助や、どう見ても非効率な事業を見かける。ほんとうに必要な事業に資金と人材を集中させるために、思い切った見直しが求められる。
日本の納税者に信頼される組織になるための努力も欠かせない。
大手コンサルタント企業が事業を受注する見返りにベトナム政府の役人に巨額のわいろを贈っていた汚職事件が先に発覚した。ODA増額のために世論を味方につけなければならない時に、ODAを食い物にした汚職が起きれば、国民の理解は損なわれる。再発防止策を徹底したい。
地球温暖化、感染症やテロなど国境を越えた脅威への対応が迫られている。経済のグローバル化による貧富の格差が拡大し、米国発の金融危機の影響も途上国に及びつつある。民間投資を途上国に導く触媒としての役割もODAに期待されている。
にもかかわらず、日本のODA実績は減り続け、07年に世界5位に転落してしまった。欧米や中国などは援助増に動いている。
政府は財政難を理由にあげるが、そうした内向きの理屈では日本のソフトパワーはしぼんでいくだけだ。日本の政治には、新JICAの発足を機にそこをよく考えてもらいたい。
心や体に重い障害を持つ人々にとって、最高で月に8万円あまりが支給される障害基礎年金は生活の支えだ。
これを受けるには、国民年金に入っているか、あるいは20歳になる前に医師の診察を受けているかのいずれかが必要だ。審査は公正でなければならないが、救済されるべき人を排除してしまうことがあってはならない。
悩ましいのが統合失調症の場合だ。ほかの病気やけがと異なり、発症しても患者が医師にかかるまでに長い月日がかかり、結果的に20歳を過ぎてしまうこともある。原因がはっきりしないうえ、本人や周囲もなかなか気づかないためだ。このようなとき、「初診日」をどう考えるべきか。
最高裁は「政府が客観的に公平に審査するためには、厳密に初めて診察を受けた日と考えるべきだ」との判断を示した。統合失調症の2人の男性が、不支給の取り消しを求めた裁判でのことだ。これで原告の敗訴が確定した。
背景には、学生については90年度まで、20歳を過ぎても国民年金への加入が任意だった事情がある。当時のほとんどの学生と同じように、原告の2人も未加入だった。また、2人が統合失調症と診断されたのは、21歳と20歳のときだった。2人は、統合失調症の特徴を理由に、「20歳前に発症したのは明らかだ」と訴えた。
一審では原告側がいずれも勝訴したが、二審では、1人は勝訴、もう1人が逆転敗訴と分かれた。
最高裁第二小法廷の4人の裁判官の判断も3対1に分かれた。
多数意見は法律の条文を文字通り解釈して原告の主張を退けた。2人が医学的に20歳前に発症したとみられることは最高裁も認めているのに形式的すぎる。救済されるべき障害者を切り捨てた行政をただしてほしかった。
反対意見を付けた今井功裁判官は「障害基礎年金は社会福祉の原理に基づいて作られた制度だから、発病と近い時期に診察を受けることが期待できない病気については、20歳前に発病していたことが医学的に確認できれば足りる」と述べた。法律を柔軟に解釈して救済を優先しようとする考え方であり、こちらの方が説得力がある。
2人が年金の支給を申請してから10年。提訴してからも7年がたった。48歳になる原告は、生活保護と、無年金者救済のために3年前につくられた特別障害給付金の計15万円を得て、ひとりで暮らしている。もう1人の40歳の男性の収入は特別障害給付金と福祉作業所の報酬など計5万円だけで、いまだに両親が養っている。
2人のような人たちを、司法によって救う道は断たれた。このうえは国会が動くしかない。すみやかに法を改正し、20歳前の発病が医学的に証明された場合にも支給の扉を開くべきだ。