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2008年10月20日

◎相撲の膝故障予防へ 地域の課題に立脚した研究

 金大附属病院整形外科の北岡克彦臨床教授と島洋祐医師らが、相撲の取組中に選手に起 きる膝(ひざ)の靭帯(じんたい)損傷について発症のメカニズムの解明や予防法の確立に挑んでおり、来月開かれる日本臨床スポーツ医学会でこれまでの成果を発表する。

 研究のあり方を公開することによって、出席した研究者から助言してもらうことを兼ね て発表するもので、発表を機に多くの力士が治療に通う同愛記念病院(東京)の医師とも連携し、大相撲の取組映像を使い研究を深めたいとしている。相撲王国・石川県の切実な課題に立脚したテーマともいえ、研究の進展を大いに望む。

 膝の靭帯は四本あり、関節を安定させるために十字にクロスしていることから「前十字 靭帯」と呼ばれ、その損傷は相撲によるけがの代表格で、両足に故障を抱える選手も多いそうだ。他の部分のけがと違って選手生命にかかわる場合もある。

 前十字靭帯の損傷は他のスポーツでも踏ん張ったり、ボールをけったり、ジャンプの着 地などの動作に伴って起きる。整形外科には種々のスポーツによるけが人が治療にくるが、北岡教授らが相撲選手の膝の故障に関心を持ったのは、県内の選手の治療を手掛けたことからだった。

 そうした矢先、今年五月の高校相撲金沢大会で靭帯を損傷した選手が二人出たため、け がをした取組の映像を取り寄せて検討した結果、二人とも土俵際に追い込まれて残ろうと踏ん張った際に膝をひねり、対戦相手の体重がのしかかって発症したとの推定にたどり着いた。

 島医師は前十字靭帯の損傷の治療や予防で成果を挙げているノルウェーの研究所「オス ロ・スポーツ外傷研究センター」へ約一年留学して帰国したばかりで、ノルウェーでは国技のサッカーやハンドボール選手が靭帯を傷めるため膝のまわりの筋肉を鍛えたり、バランスを取る能力を高めたりして損傷を激減させた。

 が、前十字靭帯損傷の発症メカニズムは解明されておらず、各国が解明を競っているテ ーマだ。相撲王国から画期的な成果が生まれてほしい。

◎インド洋給油活動 継続が現実的な選択肢

 海上自衛隊によるインド洋での給油活動は、国際社会が結束して行うテロ阻止活動の一 つである。その活動をさらに一年間延長する新テロ対策特別措置法改正案の質疑が国会で始まったが、海自の給油活動は「テロとの戦い」で日本が現在果たし得る最も効果的で安全な取り組みといえ、原油輸送の海上交通路(シーレーン)防衛の観点からも国益にかなっている。

 アフガニスタンを舞台にしたテロとの戦いは長期戦を強いられている。旧支配勢力のタ リバンが勢いを盛り返し、北大西洋条約機構(NATO)加盟国を中心にした多国籍軍が増派に動く中、日本だけが離脱すれば、国際社会の信頼を一気に失うことになろう。

 民主党はアフガン本土での人道的復興支援活動を柱とする対案を出している。しかし、 本土での復興支援は望ましいとはいえ、派遣要員の安全確保は難しい。活動条件の抗争停止合意などは実現性に乏しく、民主党案が成立しても「実際には何もできない」と批判されても仕方があるまい。

 海自の給油活動は、ソマリア沖で日本の船を狙う海賊ににらみを利かせる効果もある。 ソマリア沖に出没する海賊は国際的な脅威になっている。その取り締まりを行っているのは、海自の補給を受ける多国籍軍なのであり、給油活動の継続は国益確保につながる現実的な選択肢といえる。

 一方、自国船の護衛を海自が直接行っても不思議ではなく、民主党の提案を受けて、麻 生太郎首相が海賊対策に海自艦艇の活用を検討する考えを示したのはもっともである。議論を重ねて実現の道を探ってもらいたい。

 新テロ特措法改正案は、民主党の早期採択方針で月内に成立の見通しであるが、これを 「とば口」に総選挙でさらに外交と安全保障政策を論じてもらいたい。外交・安保は「票にならない」として国政選挙の争点から外されがちである。しかし本来、国家運営を託す政党、政治家を選ぶ最重要の判断基準である。次の総選挙は政権交代がかかっているだけになお鋭く問われなければならない。


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