今季限りで辞任するプロ野球阪神の岡田彰布監督(五〇)。ある出来事から好感を寄せていただけに残念だ。
優勝争いが佳境を迎えた十月四日の神宮球場。延長十二回引き分けの熱戦を終えた岡田監督に心ないヤジが飛んだ。「何やっとるんじゃ。おまえなんか誰もついていかんぞ」。監督はスタンドに歩み寄ると、「もういっぺん言うてみい。その言い方があかんやろう」と青年を一喝した。
親子ほどの年が離れた相手からの「おまえ」呼ばわり。「ふん」とやり過ごす監督は多いだろうが、説教するなんて聞いたことがない。青年はその場で謝罪したという。
地域、家庭であいさつや言葉遣い、目上の人への敬意など、ごく当たり前のことを若者に説いて聞かせる機会は失われつつある。食品偽装や性犯罪など大人たちへの信頼も薄らぎ、子どもの孤立感は深まっている。
そういう私も、娘の生活態度を注意したくても「嫌われはしないか」とぐっとのみ込むことがある。「子どもを信じる」というのはうわべだけで、悪い意味での「放任主義」かもしれない。
厳しい警察取材では「相手に飛び込み、まず自分を知ってもらえ」と先輩に教わった。波風を立てないことを選択するより、心を開いてぶつかれば互いの距離が縮まることはある。岡田監督のような人間味あふれる“雷おやじ”が地域に増えれば、今の日本も少しは変わるかもしれない。新聞も是々非々でそんな役割を果たしたい。
(社会部・広岡尚弥)