政府は、四月から空席が続いていた日銀副総裁に山口広秀理事を起用する人事案を国会に提示した。衆参両院の同意が必要だが、今度は民主党も同意する見通しで、執行部の一部が不在という異常事態はようやく解消されることになりそうだ。
山口氏からの所信聴取と質疑は、二十一日に衆参両院の議院運営委員会でそれぞれ行われ、二十四日の衆参両院本会議で採決する日程で与野党は大筋合意している。
民主党は二十一日に党同意人事検討小委員会で検討、役員会で方針を正式決定するが、山岡賢次国対委員長が反対しない考えを明言するなど党内に目立った反対論はない。両院本会議では与党、民主党などの賛成多数で同意されるとみられる。
世界的な金融危機を背景に、麻生太郎首相が対応を急いだのは適切な判断といえよう。景気後退で金融政策のかじ取りが難しくなる中、日銀は危機克服へ向けてさらに重い責任を果たさねばなるまい。
山口氏は日銀の業務全般を幅広く経験し、金融政策に精通している。国会や財務省などとの調整役をこなすなど問題解決の手堅さにも定評がある。民主党がこれまで「財務省出身」を理由に人事案に反対してきた経緯も考慮し、起用が決まった。
日銀正副総裁人事をめぐっては三月、財務省出身の武藤敏郎日銀副総裁の総裁昇格案が参院で不同意となり、白川方明、西村清彦両副総裁だけが就任、白川氏が総裁代行を務めた。
四月には、白川氏の総裁昇格案が同意されたが、後任副総裁に渡辺博史前財務官を起用する案は参院で不同意となり、定数二人の副総裁のうち一人が空席の事態が続いていた。
米国発の金融危機は世界に広まり、激しい株安の連鎖を招いた。米欧の主要中央銀行が協調利下げに踏み切り、各国が大手金融機関に巨額の公的資金注入を決めるなど金融安定化に向け総力戦で臨んでいる。米欧の中央銀行とは緊密な連携が欠かせまい。副総裁の「空席」は国際的な政策協調にも支障を来しかねない状況だった。
日銀の政策を決定する政策委員会のメンバーは現在、九人の定員に対して、副総裁と審議委員を一人ずつ欠いた七人だ。残る審議委員の補充も急がねばなるまい。山口氏が副総裁になれば白川総裁の負担は大幅に軽減され、日銀の顔として総裁業務に専念できよう。金融危機や景気悪化など山積する課題に対し、日銀は政府とも連携して危機対応に万全の措置を講じなければならない。
国連安全保障理事会の非常任理事国が改選され、日本が選ばれた。任期は二〇〇九年から二年間で、日本の選出は加盟国中最多の十回目である。
一つのアジア枠をイランと争った。当選には投票国の三分の二の賛成が必要で、割れた場合は投票が繰り返される規定だが、一回目であっさり決まった。得票数は日本百五十八カ国、イラン三十二カ国だった。
日本は当初から圧勝を目指していた。悲願とする安保理常任理事国入りへのステップとするためだ。核開発をめぐり安保理の制裁下にある点でイランは不利であり、日本にとっては狙い通りに事が運んだ。安保理改革の政府間交渉は来年二月までに開始が合意されている。
悲願実現へ環境が整ってきたと政府内には楽観論も広がりつつあるというが、簡単にはいくまい。〇五年、日本はドイツ、インド、ブラジルと組んで安保理拡大の決議案を提出したものの、日本の常任理事国入りに賛成しながら安保理拡大には反対した米国や、中国などの反対で廃案になった。〇六年にも別の拡大案を検討したが、支持が広がらず頓挫している。
高須幸雄国連大使は今回の当選を受け、アフガニスタン復興支援や東ティモール問題に積極的に取り組み、日本の存在感をアピールする考えを示した。以前に比べれば関係が改善した中国や、大票田のアフリカ諸国の支持を取りつけられるかが今後のポイントになる。
常任理事国を第二次大戦の戦勝国が占める現状は、二十一世紀の世界を反映した形に変えなければならない。しかし、日本が加わる意義、常任理事国として何をやるのかの議論は、いまだに置き去りの感がある。国内議論を深め、世界に対し明確にしていく必要があろう。
(2008年10月19日掲載)