機種依存する○に数字は、1)、2)などに置き換えた。
平成20年(ワ)第5号 損害賠償請求事件
原告 天羽優子
被告 吉岡英介 外2名
第1準備書面
平成20年10月10日
東京地方裁判所民事第44部合C係 御中
原告訴訟代理人弁護士 弘中惇一郎
同 弘中絵里
同 大木 勇
同 品川 潤
第1 被告ら準備書面第1について
1 1について
被告らは,原告は,「水は変わる」について,名誉毀損訴訟を提起する前に,まず反論や釈明をすべきである旨主張している。
(1) しかし,どのような法的根拠によって原告が被告らに対する反論や釈明の義務を負うのか,原告が反論や釈明をしなかったことで本件訴訟においてどのような法的効果が生じるのか,被告らの主張からは全く明らかでない。
(2)ア また,請求原因には,侮辱的表現による名誉感情侵害,写真の無断使用による肖像権侵害が含まれているところ,これらは反論しても意味のないものであり,反論を問題にする余地はない。
イ さらに,名誉毀損については,原告による反論は不可能であった。
まず,本件プリント版は,原告の頭越しにお茶の水女子大学に直接提出され,原告の知らないところで,原告による反論の機会のないまま,大学関係者に閲覧されていた。
また,本件書籍については,書籍という媒体の性質上,原告が被告らと対等の立場で反論をするということは不可能である。
そして,本件サイトについても,被告吉岡の見解が掲載されているだけで,本件サイト内に原告による反論が可能な場は設けられていない。
したがって,原告による反論が可能であったことを前提と+る残告らの主張は成り立ち得ない。
2 2について
(1) (1)について
被告らは,お茶の水女子大学に「水商売ウォッチング」について不服を申し立て,閉鎖あるいは移転を要求することは,被告らの当然の権利であり,原告自身も大学へのクレームを歓迎しているのだから,不法行為は成立しない旨主張する。
しかし,原告が本件で問題としているのは,被告らがお茶の水女子大学に不服を申し立てたことそれ自体ではなく,被告らが,その内容として,原告の名誉を毀損したり侮辱したりする違法な表現を用い,また,原告の写真を無断で使用したという点である。
そして,このような行為をすることが被告らの当然の権利であるなどということはありえないし,これを原告が歓迎するなどということもありえない。
(2) (2)及び(3)について
被告らは,訴えの変更や移送の当否について述べているが,すでに決着した問題であり,本案とも関係がないので,反論は省略する。
(3) (4)について
被告らは,お茶の水女子大学に提出された文書を原告が見たことがなかったということは,大学内部において名誉が毀損されるような形での取扱いがなされなかったということであり,名誉毀損は成立しないと主張する。しかし,原告が大学に提出された文書を見たことがなかったということは,提出された文書に何が記載されているかを原告が知ることができず,したがって,それに対する反論もできなかったということを意味するのであり,むしろ,被告らの行為に名誉毀損が成立するのはもちろん,その損害が大きいことを根拠付けるものである。
(4) (5)について
被告らは,原告が本件訴えを提起した動機について,勝手な憶測を交えて述ぺているが,原告がどのような動機で本件訴えを提起したのかということと,被告らに不法行為が成立するかどうかは,全く関係がない。
第2 被告ら準備書面第2について
被告らは,原告の科学的な誤りについて回答ないし釈明を裁判所に提出すべきであると主張する。
原告は,科学的観点から見て,原告の主張の方が正当であると考えるものであり,その論拠もあるが,このことは,被告らの行為にっいて不法行為が成立するかどうかとは全く関係がなく,本件訴訟において回答や釈明をする必要はない。
第3 被告ら準備書面第3について
1 1(1)について
訴訟を提起する前に反論をすべきであるという主張であるが,これについては,第1の1(2)で述べたとおりである。
2 2について
(1) (1)及び(2)について
ア 被告らは,企業の営業を妨害することが原告の「目的」であるなどとは記載しておらず,「意図」という記載しかないのであり,これは原告に企業の営業の妨害というr結果」が生じることについてr未必の故意」があったということを意味するに過ぎないから,名誉毀損にあたらないと主張一する。
(ア)しかし,「目的」や「意図」といった言葉の意味をみると,「大辞林」第二版(株式会社三省堂刊)によれば,「目的」とは,「実現しよう,到達しようとして目指す事柄。めあて。」とされており,他方,「意図」とは,rこうしようと考えていること。目指していること。」と,「意図的」とは,「はっきりした考え・目的があるさま。」と説明されている。
つまり,「目的」と言っても「意図」と言っても,その意味するところは同じであり,被告らが「水は変わる」において記載した内容を「原告の目的が企業の営業を妨害することにある。」と言い換えても意味は変わらない。
他方,「意図」という言葉の中には,被告らの言うような「未必の故意」にあたる意味は全く含まれていない。
(イ)また,被告らが,本件サイト上の「水商売ウォッチングにおけるネット中傷の実態 2」と題するぺ一ジ(甲3の6)において,「客を減らすことが目的の書き込みである。」と記載していることからしても,被告らが,原告の目的が企業の営業を妨害することにあるという意味で,本件書籍等の各記載をしていることは明らかである。
(ウ)したがって,被告らの主張は,不合理な言い逃れというほかない。
イ なお,「意図」という言葉が,原告に企業の営業の妨害という「結果」が生じることについて「未必の故意」があったということを意味するに過ぎないという被告らの主張は不当であるが,被告らがこのような主張をするということは,被告らが,原告の目的が誤った科学的知識の流布を阻止することにあり,企業の営業に支障が出ることがあっても,それは「結果」でしかなく,原告の目的とするところではないということを認識していたことを意味する。
つまり,被告らは,原告に企業の営業を妨害する目的がないことを認識しながら,あえてそのような目的があるかのような記載をしたのであり,極めて悪質である。
(2) (3)及び(4)について
被告は,原告が訴状第2の2(1〕ア(イ)(訴状6頁)で引用したr水商売ウォッチング」トップページの記載の加筆時期について纏々述べる。
「水商売ウォッチング」のサイトが開設され,トップページが作成されたのは平成15年7月ころであるが,訴状で引用した記載は,トップページ作成当時には存在せず,後に加筆されたものである(加筆の時期については,記録が残っておらず,定かでない。)。
ただ,当該引用部分があってもなくても,原告が「水商売ウォッチング」のサイトを開設した目的に変わりがあるわけではなく,原告がいかなる目的で「水商売ウォッチング」のサイトを開設したのかは,開設当初から存在する他の記載からも明らかである。
例えば,「水商売ウォッチング」の平成15年10月ころの版として被告が提出した乙第5号証の2には,「このぺ一ジを,水商売を非難したり特定の会社の営業を妨害したりするぺ一ジだと勘違いする人がたまにいますが,全くの誤解です。ここで行っているのは,会杜が公開した製品のメカニズムの説明や,その他の出版物の内容にっいて,科学的に正しいかどうかという観点から議論するということです。」,「ここで取り上げたからといって,製品の販売がいけないということや,性能が悪いということは意味しません。」,「ただし,製品の販売や宣伝の際に,わざわざ誤った科学的説明を無理矢理くっっけるということは,科学に対する誤解を広める可能性があるので,私の立場としては見過ごせないからツッコミを入れます。」との記載がある。
これらの記載は,訴状で引用した部分と趣旨を同じくするものであり,これらの記載からも,原告が「水商売ウォッチング」を開設した目的が,企業の営業を妨害することにあるのではなく,誤った科学的知識が流布するのを阻止することにあることは明らかである。
3 3について
(1) 被告らは,原告の「目的」が原告の個人的利益を図ることにあるという記載をしておらず,「ための」という記載しかないのであり,これは「動機」ということを意味するに過ぎないから,名誉毀損にあたらないと主張する。
ア しかし,被告らは,「水は変わる」第3章の中で,3-1の表題として「『水商売ウォッチング』の目的」と掲げ(甲2 67頁,甲3の5),「天羽優子氏が『水商売ウォッチング』を作った真の目的は何だろうか。彼女の言葉から探ってみよう。」(甲267頁),「結局,彼女が『水商売ウォッチング』を作った主たる目的は,2番目に上げた,研究費獲得に役立てようということだ。」(甲2 69頁),「そして実はそこにこそ,『水商売ウォッチング』の真の目的があるのだ。」(甲2 74頁)などと記載し,章の最後には,「ここまで,天羽優子氏の杜会認識の誤り,科学認識の誤りを指摘し,彼女自身の言葉によって,『水商売ウォッチング』の真の目的を探り出してきた。彼女は,お茶の水女子大学を利用して企業の販売活動を妨害し,自分に対する批判はJ洞喝で押さえつけ,傍若無人の振る舞いをしてきた。それらの行動はすべて、彼女の『将来を賭けた』行動,すなわち彼女の個人的な欲求を満たすための行動だったのである。」(甲2 78頁)とはっきり記載している。
イ また,言葉の意味をみると,「大辞林」によれば,「ため」とは,「その物事を目的とすることを表すのに用いる」言葉であるとされ,「動機」とは,「人が行動を起こしたり,決意したりする時の直接の(心理的な)原因・きっかけまたは目的。」と説明されている。つまり,「目的」と言うのと意味は全く異ならない。
ウ 結局,被告らの主張は,不合理な言い逃れであるというほかない。
(2) 被告らは,原告が「水商売ウォッチング」を開設した目的が原告の個人的利益を図ることにあることの根拠として,
(a) 原告が「我々の利害があってやっている」と述べ,その利害の内容として,1)大学として杜会貢献をするため,2)研究費獲得のため,3)杜会的コストを減らすためであると述べていること
(b) 原告が,自分の将来を賭けてやってきたことであると述べていることを挙げる(甲2 67頁,73頁)。
ア しかし,まず(a)についてみると,1)及び3)は原告個人の利害とは明らかに関係がない。2)についても,科学界において,限られた研究費がより効果的に配分されるようにしたいという趣旨であり,原告個人の研究費を問題にしているわけではない。原告が「私」ではなく「我々」という言葉を用いていることからも,原告が個人の利害のために活動しているわけではないことは明らかである。
イ また,(b)についてみると,「自分の将来を賭ける」というのは,アで述べたような,杜会あるいは科学界への貢献という目的を達成するためなら,自分の研究者としての地位を犠牲にすることも厭わないという趣旨である。研究者としての地位の喪失というリスクとともに天秤にかけられているのは,原告自身の研究費の獲得などという個人的利益ではなく,誤った科学的知識が流布するのを阻止し,それによって科学界全体における研究費の適正な配分を実現し,社会的コストを軽減するという公共の利益なのである。
ウ 以上のことからすれば,被告らは,原告の言葉を恐意的にねじ曲げて解釈し,原告の目的が個人的利益の追求にあるとこじつけることによって,原告の社会的評価をことさらに低下させようとしていると解さざるを得ない。
4 4について
被告らの行為が,原告を侮辱し,原告の名誉感情を違法に侵害するものであることは,訴状で主張したとおりである。
5 5について
(1) 被告らは,原告は雑誌「第三文明」への写真の掲載を承諾したのだから,同じ写真を被告らが公表しても,肖像権の侵害にはあたらないと主張する。
しかし,肖像権を放棄し,写真の公表を承諾するか否かを判断する上で,公表の目的,態様等の条件は極めて重要な要素であるから,写真の公表を承諾したとしても,それは,前提となった条件の下での公表を承諾したに過ぎず,承諾の前提となった条件と異なる条件で写真を公表するには,改めて承諾を得る必要があるとするのが判例である(東京地方裁判所平成13年9月5日判決判例時報1773号104頁)。
そして,雑誌「第三文明」に原告に対するインタビュー記事とともに掲載するのと,被告らの作成する本件書籍等に原告の名誉を毀損したり原告を侮辱するような記載とともに掲載するのとでは,前提となる条件が全く異なるから,改めて原告の承諾がない限り,肖像権侵害にあたるというべきである。
したがって,原告が雑誌「第三文明」への写真の掲載を承諾していたとしても,本件書籍等への掲載について原告の承諾がない以上,肖像権の侵害にあたる。
(2) また,被告らは,原告には自分の写真を公表する義務があるなどと主張するが,なぜそのような義務が導き出されることになるのか,その法的根拠が全く不明である。
d以上
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