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出産直後の赤ちゃんを抱く田辺さん(中央)=助産院「未来」(戸田市下前) |
産婦人科の閉鎖が相次ぐ中、助産院が注目を浴びている。助産院で出産した妊婦の満足度は高い。県内の病院での出生数は二〇〇四年から〇五年にかけて千人近く減少しているにもかかわらず、県内助産院での出生数は七百人前後を保っている。
▼子どもの立ち会いも
今月十二日、川口市に住む田辺さとみさん(44)は、戸田市の助産院「未来」(武田誠子院長)で四人目を出産した。これまでは産科で出産してきたが、小さな子どもがいることもあり、日帰りも可能で自宅に近い助産院にメリットを感じたという。
「赤ちゃんはどこからくるのか、ママはなぜ赤ちゃんを大切にするのか、どこで何をしているのか分かってほしかった」
田辺さんは、お姉ちゃんになる涼香ちゃん(2つ)を出産に立ち会わせた。お産で、上の子が立ち会える病院は少ないが、助産院なら家族の立ち会いが可能だ。
田辺さんは涼香ちゃんが夫と共に立ち会ったことについて「泣いたり、驚いたり、『ママ頑張って』と応援してくれた。生まれたばかりの赤ちゃんを見てかわいいと言っていた。涼香が自宅に帰るとき、誰にも言われてないのに先生に『生んでくれてありがとう』とお礼していた」とうれしそうに話した。
▼母乳で育てる喜び
田辺さんは今まで、子どもに母乳をあげたことがなかった。赤ちゃんが乳首を吸わず、家族からミルクの方が良いと促されたため母乳で育てるのを断念した。
今回は、武田院長に勧められ、母乳にした。田辺さんが、恐る恐る母乳をあげると、赤ちゃんはモグモグと勢いよく口を動かし乳首を吸った。「今までミルクで育ててきたから、念願の母乳をあげられてうれしい」と、初めて母乳で育てる喜びを感じたようだった。武田院長の話によると、出産直後は母乳が出なくても、吸わせることで母乳が出るようになってくるという。同助産院では、母乳の出ない患者さんを対象に胸のマッサージをする母乳外来も行っている。上手で、よく母乳が出ると好評だ。さいたま市南区の女性(32)は「三日に一度来ている。母乳はだいぶ出るようになった」と効果を感じている様子だった。
▼産後の不安もケア
無事出産を終えた田辺さんは、入院から十二時間後に退院した。同助産院では、出産後四日間、助産師が赤ちゃんや母親のケアのため自宅まで来てくれる。田辺さんは、「脚、腰、背中、胸のマッサージ、赤ちゃんの沐浴(もくよく)など一時間半くらいかけて、心と体のケアをしてくれた。一般の病院に入院したら、看護師や医者を独占して話す時間はないと思う」と話した。
産後の検診に訪れていた大宮区の女性(29)は「家庭的でリラックスできる。産後の不安や育児の相談に乗ってくれる」と手厚いケアに満足そうだ。同助産院では検診だけでなく、月に一回、十人前後の妊婦を招き、一緒に食事をして交流も深めている。武田院長は「最近の妊婦さんは、核家族で近くに身内がいない。家族的な役割を果たす助産院をつくりたかった」と話す。
田辺さんは「助産院で出産するのは不安だった。でも、最新の医療機器がそろっているからといって、必ずしも良いお産ができるわけではない。赤ちゃんの誕生に自然な流れをつくり、手助けしてくれる場に出合えて本当に良かった」と話した。出産した戸田市の女性(35)も「先生が励ましてくれた。ここで生んで良かった」と幸せそうだった。
助産院の良さを見直す動きは少しずつ広がり、一月に、さいたま市に誕生した助産施設「さくら助産院」には、十人の若い助産師(平均年齢三七・五歳)がおり、妊婦のことを考えたエクササイズや食事、設備が注目を集めている。
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助産院での出産 逆子や以前、帝王切開を受けたことがある場合など、緊急措置が必要となった場合、助産院提携の病院へ搬送となるため誰もが可能な出産方法ではない。助産院での出産のメリット、デメリットを十分理解した上で、見学や説明を受けるなどして、自分に合った助産院やお産方法を探すことが求められる。
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