CROWNⅡ optional reading
クラウンⅡ optional lesson
The Sound of Silence?
名前に何があるというのです?私たちが薔薇と呼ぶあの物は、たとえ他の名で呼ぼうとも変わらず甘く香るでしょうに。
単語とそれが言及する物には自然な関係があるのだろうか?英語の話し手はウマを‘horse’と呼ぶが、それは正しく聞こえるからである。しかし日本語の話し手にとってはその動物は‘uma’である。ドイツ語では‘Pferd’、イタリア語では‘cavallo’である。その言語の話し手にとってはすべてが“正しい”名前である。ある言語学者によれば、世界には6,000を超す言語がある。これはつまり、ウマを表す6,000以上の異なった、それでいて正しい名前があるということである!けれども、もし“正しい”という言葉を、単語とそれが言及する物の自然な関係として定義するのであれば、これはばかげている。
有名なスイス人言語学者のフェルディナン・ド・ソシュールはずっと前に音と意味には何ら自然な関係はないと結論付けた。それにもかかわらず、この一般的な規則には面白い例外がある。いくつかの単語の音は実際にその単語が表すもの物を示す。“オノマトペ”と“音象徴”を見てみよう。
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日本語のオノマトペの表現には擬音語、擬態語、擬情語がある。擬音語はニャーニャー、ワンワンなど自然界の音をまねる。擬態語はニコニコ、ニヤニヤなど外界の状態を示唆する。擬情語はイソイソ、イライラ、ソワソワなど心理状況を表現する。日本人はそうした表現を豊富に使うが、こうした例には音と意味に自然な関係がありそうである。
英国人は日本人ほどオノマトペを利用しない。けれどアメリカの漫画を読むと‘AAARGH!’…‘KABOOOM’などの単語を見かけるだろう。ここにあるのがその他の例である。‘honk’…‘baa’。
要するに、オノマトペの表現はソシュールの理論に矛盾するように見えるということである。
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音と意味が結びついているかもしれないもう一つの方法の例は音象徴で、それはある特定の音が一つの意味と結びついている。‘mal’と‘mil’という意味のない単語を使って実験が行われた。被験者はこれらの単語はサイズの異なるテーブルを言及すると言われた。彼らは二つの単語を小さいほうか大きいほうのテーブルのどちらかと結びつけて欲しいと頼まれた。少し時間を取って君自身も考えてみて欲しい。結果は‘mal’が大きいテーブル、‘mil’が小さいテーブルに結び付けられる傾向があることを示した。なぜか?母音がサイズの違いに関連しているようである。実際、ある言語学者は母音の“サイズ”が[o][u][a][e][i]の順に小さくなっていくと主張した。たとえば、[a]音を持つ‘large’という単語は実際に大きいサイズを意味し、一方、[i]音を持つ‘little’は小さいサイズを意味する。子供が小ささを表現するのに使う‘itsy-bitsy’‘teeny-weeny’もまた[i]音を持っていることに注目するのも面白い。
ここで今述べた規則は、日本語の‘chiisai’‘ookii’、フランス語の‘petit’‘grand’、ギリシャ語の‘micro-’‘macro-’という反対のものの説明にもなっている。けれど例外もある。お気づきのように、‘big’という単語は小ささを指し示さないのに[i]音を持っており、‘small’という単語は大きいサイズを指し示さないのに[o]音を持っている。
[gl]という音の連続は光と視覚に結びついているかもしれない。これは特に、‘gleam’‘glare’‘glitter’‘glimmer’‘glisten’などの単語を持つ英語に当てはまる。月光は水面で‘gleam’(する)かもしれない。太陽の‘glare’は目を傷つけるかもしれない。ダイアモンドはろうそくの‘glimmer’で‘glitter’するかもしれない。彼女の目は涙で‘glisten’するかもしれない。日本語では、音声的に[gl]音にきわめて近くて類似した意味を持つ‘gira-gira’というのがある。
音はまた形とも結びついているかもしれない。ある心理学者は人々が音と形を結びつけるかどうか確かめるため実験を行った。彼は被験者に下の絵を見てそれらの形と‘maluma’と‘takete’という二つの意味のない単語を組み合わせるよう頼んだ。
被験者の大多数は‘maluma’が曲線状の形に対応し、‘takete’が角張った形に対応すると考えた。他の言語の話し手にも類似した実験を行ってきたが、結果は同じだった。
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音と意味の関係を見ると、音は私たちに訴えかける力を持っている気がする。広告のキャッチフレーズがしばしばオノマトペを利用するのはおそらくこのためである。たとえば次のフレーズを見て欲しい。“Clunk click, every trip”。このフレーズは英国で交通安全のキャンペーンに使われたもので、車のドアをバンと閉めた後はシートベルトをカチンと締めようという意味である。
文学では、詩人は言葉の意味に感情を付け加えるためしばしば音象徴を使う。芭蕉は静寂の音を喚起するため[s][?]の音を繰り返し使う。
静かさや
岩にしみ入る
蝉の声
ドナルド・キーンによる英訳も静けさを表現するために[s]音を使っていることに注意して欲しい。
ソシュールが音と意味とに自然な関係がないと言うのはおおむね正しい。けれども今見てきたように、オノマトペと音象徴の例は彼の理論の重要な例外である。見たり聞いたり感じたりしたことを話す際に、私たちはしばしば意味をほのめかす音を持つ単語を選ぶ。言葉を使うときはおそらく、私たちはみな詩人である。/