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【まち語りもの語り】離島の病院 宮城・網地島 最高の医療で恩返し (1/3ページ)
豊かな海の幸に恵まれた宮城県石巻市の牡鹿半島。その南方に、約500人が生活する離島・網地島(あじしま)が浮かぶ。半島から島への定期便は1日4便だけ。それさえ海上から吹き付ける強風にあおられ、運休になることが少なくない。
日本中の離島で過疎が進む中、とりわけ不便なこの網地島では“島に残る”選択をする高齢者が増えている。約9年前、入院、手術といった離島には珍しい充実した医療施設を整えた「網小(あみしょう)医院」が島の中央に完成したためだ。
島で生まれ、夫婦2人で暮らす辺見千代子(80)もその一人。「病院ができる前は、そろそろ島を出ようかと思っていたんです。今じゃ、島にいる方が安心なぐらいですよ」。そう語るにはもちろん理由がある。
昨年1月のこと。千代子が夕食後にテレビを見ていると夫、喜久雄(83)が入院する網小医院から電話があった。「おじいちゃんが危ない。病院に来てほしい」
寝間着の上にジャケットを羽織り、迎えに来た車に飛び乗って病院に向かった。病室では、意識が遠のく夫のベッドの脇で、院長の安田敏明(49)が容体に目を光らせていた。尿路感染症で入院していた夫は、冷え込んだこの夜に心筋梗塞(こうそく)を発症。応急処置が施されたが、専門医による緊急手術が必要な状態だった。
「石巻の病院に連絡して、血管を広げるカテーテル手術の準備をしてもらった。船を手配したからすぐに行こう」
島の港から、安田が無理を言って頼んだ小型のモーターボートに彼女も一緒に乗り込んだ。安田は狭い後部座席に夫を寝かせると、右手で点滴の輸液ポンプを持ち、左手で管を固定。座席から落ちないように夫の体をひざで支えた。