−−暴走空間−−
〜怪しいネットの魔力(2)〜

海賊版映画の“職人”

◇逮捕のリスク厭わず翻訳

 「何でも無料で手に入る」などとパソコン雑誌で紹介されるようになったこともあって、利用者が急増しているファイル交換ソフト。そこには、確かに、ヒット曲や最新映画、PCソフト、個人情報…あらゆるものが無料で流通している。

 海賊版被害の業界が首をひねるのは、「1円の得にもならず、逮捕のリスクさえあるのに、なぜ。違法行為に手を染めるのか」という疑問だ。

 その「答え」とまでは言えないが、ファイル交換ユーザーの間で知らぬ者がいないほどの有名人の存在は象徴的だ。

 その名も「アナル男爵」。海賊版の日本語字幕の“職人”で、正規版でいう戸田奈津子氏のようなカリスマ的存在だ。

 ファイル交換ソフトユーザーを追った編書があるライターの津田大介氏は「映像に日本語字幕をつける作業は、2時間の作品で最低1週間はかかる」という。

 アナル男爵は正体不明で、名誉欲なのか愉快犯なのか動機もわからないが、この難作業を厭わず、画質の良い海賊版を中心に【日本語字幕byアナル男爵】の“作品”を次々に供給している。

 こうした字幕職人はほかにも存在し、作品によっては日本語字幕の違うバージョンが存在する映画タイトルもある。「誤字が少ない」とか「訳が忠実」とか好みで選択しているようだ。

 映画業界が効果的な対策を取れないでいることもあり、「アニメ同人誌」にも似たアングラ文化として定着しそうな様相を見せているのだ。

 津田氏は「ファイル交換ソフトの影響はすでに一般のネットユーザーにも及び始めている」とも指摘する。

 ある大手プロバイダーによると、問題が顕在化し始めたのは昨年夏ごろ。「ファイル交換ソフトを利用したり、スパムメールを送ったりすることで、一部会員の通信量が膨大になり、他の会員の通信速度が遅くなるケースが増えた」という。

 津田氏は「現在は2割のファイル交換ユーザーが回線の8割を占有している状況」といい、せっかくブロードバンドを導入しても、快適な回線速度を得られないケースもあるらしい。

 前出のプロバイダーは「善意の会員に迷惑がかからないように」と、昨年12月に会員規約を変更。具体的な利用方法は明示しないものの、「他の会員の統計的な平均利用方法と比較して大幅に上回る利用が継続して発生する場合」に契約を解除できる一文を入れた。

 ファイル交換ソフトは存在そのものが「悪」ではなく、ユーザー一人ひとりの利用方法が問題とされているだけに、業界もプロバイダーも対策がデリケートだ。

 一昨年11月には、ファイル交換で高価な画像編集ソフトを不特定多数に提供していた専門学校生ら2人が、京都府警に著作権法違反容疑で逮捕され、有罪判決を受けている。立派な犯罪行為ではあるはずなのだが…。

 最近では、きわめて追跡の難しい新種のファイル交換ソフトも登場し、人気になっている。

 津田氏は、現状にこう警鐘を鳴らす。

 「ファイル交換が流行する一因は、ネット上に適正な対価で合法的に入手できるコンテンツが揃っていないこと。このままでは、やらなきゃ損という風潮さえ生まれかねない。流れを止めるためには、取り締まりの強化よりも、ネットで安価に販売する方法を確立するなど業界側の歩み寄りも必要になるだろう」

(櫃間訓)


戻る 追跡TOPへ 次へ
ZAKZAK