字幕か吹き替えか       2001.4. 

字幕か吹き替えかについて、わたしは以前、以下のような文章を
書いたことがあります。去年の春ごろ、
ソウルで
日本の「Shall we ダンス?」を見たとき、字幕の問題を痛感
して
書きました。

字幕か吹き替えか

ここ1、2年でしょうか。テレビで字幕が大流行ですね。
とくにバラエティー番組。「進め!電波少年」とか「ヘイ! ヘイ! ヘイ!」
なんかものすごくこってますよね。この現象は韓国も同じです。
映画でも
森田芳光さんが「(ハル)」で字幕、というより青バックに
白抜きの全画面表示で文字を効果的に使っていました。
韓国映画の「接触」はその影響があるのかな。

やはり音声と文字では、文字のほうがインパクトが強いのでしょう。
でも、ひとつのシーンとつのシーンが絵画のようにていねいに
つくられた芸術作品などは字幕とかフィルム交換を知らせる
白丸などが恨めしくなったりもしますし、字をさっと読んで絵も
なるべく全体を見逃さないようにするという作業には、
やっぱり限界があって、どうしても絵がおろそかになってしまいます。

字幕ではもとの意味が正確に伝わらないことが多いというマイナス面
以外にも、こういう無理がともないます。

では、吹き替えはどうかというと、吹き替えのほうが集中して
余裕をもって絵を見られるのはいいのですが、外国の俳優の
生の声を聞きたいという欲求も相当なものです。それが満たされない。

マンガとか劇画のような印刷物なら「スペース」とか「時間」という
制約がない(し、また音声を付すのが物理的に困難)ので、
悩むこともないのでしょうが。

現在、映画の場合、大きく分ければ三通りの方法がとられていると
いえるでしょう。ひとつは字幕オンリー。実写の多くがこれ(テレビの
洋画劇場を除く)。もうひとつは吹き替えオンリー。日本のアニメを
主としてアジアのテレビで放映する場合など。

日本文化の流入に神経質だった韓国でもなぜかアニメは
昔から解禁され
ていて「ジャングル大帝」が「日製」ということを知らない
人もたくさんいます。最後のひとつが字幕と吹き替えの二段構え。
「トーイストーリー」などがそうです。最近、増えていますね。

わたしは、当面、
字幕の精度を上げるのと同時に、
エンターテイメントの分野で、この「二段構え」を拡大していく
のが
いいんじゃないかと思います。たとえば「トーイストーリー」が
「二段構え」をとったのは対象となる子どもの年齢の幅を広くする
ためでしょう。
実際、あれは大人が見ても面白く、老若男女みんなで楽しめるもの。
エンターテイメントの王道を行ってますよね。

「Shall we ダンス?」。
この作品もかなり「老若男女みんなで楽しめる」域にあるんじゃないか
と考えます。とくに年配の女性が楽しめる要素が多い。
ならば、「二段構え」こそが有効なのではないか。吹き替えなら、
字幕よりは、この作品のセリフの内容の面白さを殺さなくて済むかも、
という点もある。「二段構え」でやってみて、どちらが面白かったかと
みんなでワイワイやったなら、映画界にとってひとつの貴重なヒントと
なるかもしれない。このようにわたしは考えます。

それから、参考までに記しておきたいのですが、わたしはじつは
テレビの洋画劇場のファンなのです。もちろん吹き替えです。
洋画劇場の声優さんの声は子どもの頃から好きでした。
韓国の洋画劇場の声優さんの声も大好きです。
「男らしさ」「女らさ」という点で、韓国の声優さんたちの声のほうが
一オクターブ高い
かもしれません。そういうのも好きです。

昼間、緊張を強いられる仕事をなんとか無事に終えて帰宅した時、
わたしは戦場から帰還した兵士のような状態です。明日はオフ。
安らぎの必要な、かつ安らげる、そんなひととき、ひとりビールを
傾けながら洋画劇場、というのはいいものです。
ニュースはよけいなこと考えるようになりそうで嫌だし、スポーツ番組は
勝負の緊張感がうとましい。テレビをつけると、
たとえば「カリフォルニアドールズ」。
金髪の大柄な女優さん。完璧な日本語(または韓国語。
わたしはどちらでもいいのですが、両方とも見てみると、
それぞれの
言語によってアメリカの女優さんの顔がちょっと違って見える
ような
気がして不思議です)。声優さんたちに特有の性格が単純かつ
ピュアなモクソリ(声)。画面いっぱいのパフォーマンス…。
わたしはなんとも明るい気持ちになります。

映画に対する集中度は、映画館とか「劇場」で見ている時よりずっと
低いですが、吹き替えのおかげで、楽しく、楽に見られます。
こういう時、字幕を追うのは億劫です。この状態でうたた寝をすると
いい夢が見られることが多いし、夢うつつのなか、声優さんの声が
かすかに脳裏をさまよっていて、アメリカの女性の姿が浮かんだり
消えたりしている、というのもいいものです。

自分を中心にものを言ってはいけないと思いますが、吹き替えには、
こういうレベルを救い上げることができるという強みもある
と思うんですよ。



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