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【国際】

韓国の日本文化開放10年 競合から共生へ

2008年10月19日 朝刊

「転々」(右上)など複数の日本映画を上映している映画館=ソウル市内で

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 韓国による段階的な日本の大衆文化開放が20日、スタートから10年の節目を迎える。この間、日本で起きた「韓流」も手伝って、日本文化に対する距離感は大幅に縮まった。一方、最も影響力が大きな放送の分野では今なお制限が残り、「全面開放」には至っていない。 (ソウル・福田要)

 ソウルの繁華街・明洞の映画館。生と死を題材にした小泉今日子主演作「グーグーだって猫である」を友人と見た女性(27)は「日本映画は、独特の柔らかさが好き」と話した。平日の夜だが、席は半分近く埋まっていた。

 日本の植民地支配を受けた韓国は、反日感情や文化的影響への懸念、国内産業保護の必要から日本大衆文化の流入を長年制限。一九九八年十月、その扉を開いたのが当時の金大中(キムデジュン)大統領だった。開放は四段階で進んだ。

 ふたを開けてみれば、当初心配された問題は起きなかった。興行成績や視聴率、売上高で「大きなヒット」と呼べる日本ソフトは、約三百万人を動員したアニメ映画「ハウルの動く城」(二〇〇四年)など一部に限られた。

 韓国での苦戦と裏腹に、日本では「冬のソナタ」など韓国ドラマが日本へ大量流入する予想外の「韓流」が起き、この結果、日韓のテレビ番組の輸出入額の格差は昨年十倍以上まで開いた。韓国では「自信が持てた」という声も少なくない。

 ただ、韓国では、開放以前からビデオやネット上の違法コピーなどでとっくに日本のソフトが視聴されていたという実情もある。

 漫画市場でも七割を日本漫画の翻訳版が占め、日本文化は若者を中心に浸透。日本小説も人気で、映画やドラマでは日本の原作の採用が相次いでいる。

 こうした現象に、韓国放送映像産業振興院の金泳徳(キムヨンドク)研究員は「大義名分の『合作ドラマ』ではなく、手を組んで収益につながる良質なコンテンツを作るための土壌ができた。日韓の大衆文化は競合から共生の段階に入るべきだ」と語る。

 小針進・静岡県立大教授(韓国社会論)の〇五年の調査では、韓国大学生の87・5%が日本の映画・ドラマを見た経験があると回答。日本に親近感を持つ学生の割合をみると、日本のポピュラー音楽を聴かない人が39・8%だったのに対し、聴く人の方が69・5%と圧倒的に高かった。大衆文化への接触が、親善にもプラスに作用する可能性を示したものだ。

 だが、お茶の間に日本語がそのまま飛び込むことへの抵抗感はなお残り、視聴者の多い地上波放送では、日本の一般ドラマや、バラエティー番組などは今も解禁されていない。

 「『第五次開放』は韓日の外交関係も絡む政治的懸案。しかし、この十年で文化的、産業的な副作用はなかった。全面開放は遠くはない」。金研究員は、そう予測する。

 一方、小針教授は「今も制限が残るのは残念だが、放送の全面開放へ踏み切った後に日韓関係が悪化した場合、韓国内で強い批判を浴びる可能性がある」と指摘。「竹島(韓国名・独島)問題で出はなをくじかれた李明博(イミョンバク)政権が、すぐに開放するのは難しいだろう」とみている。

 

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