広島県江田島市にある海上自衛隊第1術科学校入校中の3等海曹(25)が15人相手の格闘訓練中に倒れ死亡した問題に絡み、事故の3カ月前に同様の訓練を経験してけがをした元同僚隊員(25)が毎日新聞の取材に、「意識を失うような厳しい訓練だったことをもっと訴えるべきだった」と話した。教官が「手を抜くなよ、こいつのためにならんぞ」と声をかけたとも証言。一方で「去っていく私に真剣に付き合ってくれてうれしかった」と複雑な心境も吐露した。
元同僚隊員は5月末、海自の特殊部隊「特別警備隊」の養成課程を辞退したが、その2日前、残りの養成課程学生16人と格闘訓練した。今回死亡した3曹も含まれていた。
「前日に教官から突然、『やってみるか』と言われ、どんな訓練かも分からず始まった」という。16人が円形になって取り囲み、次々かかってきた。2、3人目以降記憶はあまりないが、3、4人目に前歯が欠け、唇を切り足首も痛めたらしい。「意識が飛んだ状態で立って組み手をしていた」という。
元同僚隊員は少し空手の経験があったため、意識が飛んでいても防御ができたのだろうと推測する。だが「彼(死亡した3曹)にはあまり武道経験がなかった。ふらふらになった状態で打撃を受け、防御が甘くなったのだと思う」と気遣った。
一方で「集団暴行・リンチ」などと報道されていることに違和感があるという。「部隊の特性上、課程を終えた同期生たちは日々、『死』を覚悟して生きていくことになる。一般の人には分かってもらえないかもしれないが、同期生らが去っていく私に真剣に付き合ってくれてうれしかった」と話した。訓練終了後、正座してみんなにあいさつした時泣きじゃくり、同期生たちも泣いていたという。
格闘訓練の継続については「私自身やめたほうがいいと強くいうつもりはない。でも、また同じことを繰り返すという心配もある」と語った。
毎日新聞 2008年10月18日 15時00分