◎臨床研修制度 医師不足解消に見直し急務
来春医師になる医大生の臨床研修先を決める「マッチング」結果が公表され、石川県の
定員充足率は全国三十一番目(56・5%)にとどまり、富山県は昨年のワースト二位からさらに悪化し、最下位(39・2%)という深刻な結果となった。全国的にみても都市部と地方の差は依然として開いたままで、地方の医師不足を招いた制度的欠陥はより鮮明になったと言える。
臨床研修制度は二〇〇四年度から義務化されたが、地方の臨床研修病院が研修プログラ
ムを改善し、県が医学生に地元定着を働きかけたり、都会からの呼び戻しに懸命になっても医師不足解消には限界があることも浮き彫りにしている。制度を抜本的に見直し、新人医師を地域に定着させる具体的な仕組みづくりが急務である。
厚生労働、文部科学両省は九月から有識者検討会を発足させ、臨床研修制度の見直し論
議を始めた。その中で「臨床研修制度イコール医師不足ではない」との指摘も出ているが、それは現実を直視しない的はずれな認識であろう。医大生が自由に研修先を選べる制度のもとで都市部や有名病院に医師が集中し、地方の勤務医不足に拍車をかけたのは明らかで、それを是正する措置は不可欠である。
せっかく二省が同じテーブルに就いたからには、文科省所管の医学部教育と厚労省管轄
の卒後研修に一貫性を持たせ、研修をできるだけ出身大学のある地域で実施できる方向性を探ってほしい。その場合、地域医療を担ってきた大学病院の役割をもう一度見直し、大学を基軸として地域医療を立て直す視点もいる。
大学病院の充足率は金大が86・7%に対し、富大は41・3%と半数に届かなかった
。北陸三県への医師供給源となっている金大の充足率がそれほど落ち込んでいないのは救いだが、富大は人材供給機能の面ではやはり見劣りする。
政府が大学医学部の定員増へ踏み出したことは評価できるとしても、人材養成に時間を
要し、医師不足解消の即効薬にはなり得ない。医大生が自由に研修先を選べる制度の根幹部分にメスを入れ、地域定着を促す一定のルールを設けることをぜひ検討してほしい。
◎学校耐震化計画 前倒し要請にこたえたい
大地震で倒壊する危険性の高い公立小中学校の耐震化補助金を盛り込んだ国の補正予算
が成立したのを受け、文部科学省は五年間としている耐震化計画を一年間短縮するよう自治体に要請した。多くの自治体は財政難に陥っているが、地域の防災拠点である学校の耐震化は、子どもらの安全確保のため優先的に取り組んでほしい事業である。景気悪化のおり、需要を創出して地域経済を支える観点からも前倒し実施に努力してもらいたい。
ことし四月時点の文科省調査では、全国約十二万七千棟の公立小中学校の建物のうち、
震度6強で倒壊の危険がある「耐震性のない」建物は約四万三千棟に上る。その中で特に「倒壊の危険性が高い」建物は約一万棟あり、石川県は百六十四棟、富山県は七十三棟となっている。自治体の財政難などから耐震化工事のペースは遅く、四月時点の耐震化率は全国平均で62・3%と昨年よりわずか0・9ポイントの改善にとどまる。石川、富山県とも耐震化率は全国平均を下回り、それぞれ59・6%、59・3%、全国順位で二十一、二十二番目という状況である。
授業中に校舎や体育館が倒壊した場合の被害の悲惨さは中国・四川大地震などで明らか
である。このため政府は今年、地震防災対策特別措置法を改正し、市町村が行う小中学校の耐震化工事の国庫補助率を暫定的に引き上げて、まず危険性の高い一万棟の耐震化を急ぐことにした。補助率は、補強事業の場合で二分の一から三分の二にかさ上げされ、自治体の負担は大幅に軽減される。
自治体の財政力に差があり、将来の統廃合計画などの地域事情もあって、耐震化計画の
実施には不透明さも指摘されるが、住民の安全確保は自治体の最重要課題である。石川、富山県は耐震化率を早期に全国水準に引き上げるためにも、計画の前倒しに最善の努力をしなければなるまい。砺波市は耐震化事業を早めるため合併特例債の活用方針を示している。これは積極的に取り入れられてよい手法である。各自治体は財源確保に工夫を凝らしてもらいたい。