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社説1 給油めぐる民主党の「変化」を歓迎する(10/19)

 海上自衛隊によるインド洋での給油活動の継続を内容とする法案の実質審議が衆院で始まった。衆院の早期解散のために、民主党が従来の徹底抗戦の方針を転換、法案は今国会で成立する見通しとされる。民主党の「変化」には議論があるが、給油活動の中断が避けられるのなら、あえて批判の必要はない。

 参院で野党が過半数を占める国会のねじれ状況は、給油活動の継続を求めた安倍、福田の2つの政権を事実上退陣に追い込んだ。民主党が継続反対の態度を貫き、徹底抗戦したためだった。この結果、給油活動は昨年11月から約3カ月間、中断に追い込まれた。

 民主党が今回、旗を下ろしたのは早期解散との政治的取引の結果とされる。民主党支持層には裏切られたとする思いもあるかもしれず、衆院選挙の結果にも影響するかもしれない。そうしたリスクを計算した上での判断だったのだろう。ただし民主党にとっては衆院を解散に追い込む目標に向けた戦術である点は一貫している。

 民主党による徹底抗戦が続き、給油活動が中断する見通しとなっていれば、麻生太郎首相は、それを争点に据えて衆院を解散し、総選挙で民主党の政権担当能力を問題にしていたろう。民主党は不利と見てそれを避けたのだろう。

 アフガニスタンでのテロとの戦いの重要性を認めつつも、インド洋での給油活動には反対し、一方で陸上部隊の派遣は認めてもよいとする小沢一郎代表の独特の理論はわかりにくい。まともに議論すれば、民主党内でも合意ができにくい。給油の争点化を避けたのは選挙を前にした政治的文脈での現実判断だった。

 私たちは、それによって民主党が政策的にも現実判断をできる政党に脱皮することを期待する。ただし、それは次の衆院選でこの問題が忘れられていいという意味ではない。

 テロとの戦いをはじめ、自衛隊による国際協力活動はどうあるべきか――。憲法だけでなく、日本の安全保障、日米同盟のあり方にもかかわる。選挙戦で与野党が論戦をかわす必要がある問題である。

 しかし安全保障をめぐる議論は、本来は与野党が違いを強調するのではなく、合意を探る必要がある政策分野である。そうでなければ政権交代のたびに政策が全面的に変わる結果になる。民主政治である以上、それを否定的に考える必要はないが、外交・安全保障政策が安定しない国は成熟した民主主義国と見なされないのもまた事実である。

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