NHKが1950年の放送法施行以来初めて受信料を引き下げることを決めた。地上デジタル放送への移行が終わる2012年度から受信料収入の10%を還元するという内容だ。NHKは制作費の流用などが問題となり、経営改革が求められてきた。肥大化するNHKの運営に歯止めをかけたことは評価したい。
受信料の還元は執行部がまとめた09年度からの経営計画を経営委員会が修正する形で決めた。07年度末で71%だった受信料の支払率を11年度に75%、13年度に78%まで高め、黒字分を還元する。地デジへの移行費用が11年度までに2000億円近くかかる見通しだが、それ以降は大幅に減るためだ。
具体的な還元方法は今後詰める。経営委員会は当初、一律10%の引き下げを求めたが、執行部側が今後の情勢を見極めたうえで決めたいと主張した。地上デジタル放送への完全移行と同時にチャンネル数が減るBS放送や高齢者世帯などを対象に引き下げる案もあるという。
NHKが受信料の引き下げを迫られたのは、相次ぐ不祥事などに視聴者が疑問を抱いたためだ。受信料の不払いという形で公共放送のあり方に国民が苦言を呈したともいえる。NHKが思い切った改革姿勢を自ら示さなければ、いくら支払率の改善を計画に盛り込んでも、絵に描いた餅(もち)になってしまうだろう。
NHKの改革にとって大事なのは何か。経営計画では17ある子会社群を5年以内に12―13に減らす考えだが、まず肥大化した組織や予算の引き締めが重要だ。また制作現場や職員の規律を高め、信頼される組織となる必要がある。経営計画でも示したように、パソコンや携帯電話など新しい媒体による情報発信や収入源の確保も重要になる。
通信と放送の融合も大きな課題である。12月から過去の番組や見逃した番組などを通信回線を経由して視聴できる「NHKオンデマンド」が始まる。著作・制作のほぼすべてを自ら担うNHKは、新しい視聴方法を提供しやすい立場にある。視聴者に歓迎される受信料の還元だけではなく、インターネット時代の新しい放送の形を率先して示していくこともNHKの責務であろう。