9月から10月にかけての金融危機は米大統領選の様相を変えた。9月前半までは共和党のジョン・マケイン上院議員と民主党のバラク・オバマ上院議員が世論調査の支持率でせりあっていた。危機が広がるにつれオバマ氏が優勢となる。3回のテレビ討論でも傾向は変わらず、選挙戦は最終盤に入った。
最後の2週間、2人は激しい攻防を続けるだろうが、攻撃や中傷は控え、政策の対立軸を鮮明に打ち出してほしい。
金融危機はいまのところ、マケイン氏に不利に働いている。オバマ氏は、ブッシュ政権の8年間の失敗でありマケイン氏はその延長だ、と「ブッシュ・マケイン一体論」で批判し続けた。マケイン氏はテレビ討論で「私はブッシュ大統領ではない」と答えたものの、説得力のある反論や「ブッシュ離れ」の政策を示していない。支持率の差が広がる要因でもある。
気になるのは、大恐慌以来の深刻な危機と2人とも認識しているのに、2人の政策が不十分に見えることだ。マケイン氏は企業や富裕層の減税を重視し、政府の介入より市場の競争にこだわる。上層が潤えば社会の隅々に利益や雇用が広がるという共和党の伝統的な保守思想を受け継いでいるようだ。
一方、オバマ氏は政府による規制強化や中流・貧困層の減税を主張する。政府支出の拡大だけでは、リベラルの「大きい政府論」の再現にすぎないと懸念も出るだろう。
大恐慌のあとルーズベルト大統領が登場し、政府の役割を広げるリベラルの時代が続いた。1980年代、レーガン政権が流れを変え、保守革命が始まった。規制緩和と自由競争こそが繁栄を生むともてはやされた。市場万能主義が金もうけ優先のゆがんだ価値観につながり、今回の金融危機として暴発したのではないか。だとすれば、30年近く続いたレーガノミクス時代の終わりであり、小手先の対処だけでなく新しい資本主義モデルを構築しなければならないだろう。
保守が一時的に退潮するなら、リベラルが新しいビジョンを提示する役割をになう時かもしれない。問題は、新モデルとは何かだれにも見えていない上、危機がどこまで深まり、いつまで続くか読めないことだ。
世論調査によると、金融安定化法への支持率は3割に満たない。公的資金投入はウォール街だけの利益と批判する人は63%もいる。「国が正しい方向に向かっている」と答える人は7%にまで落ちた。自信に満ちた米国人の楽観主義はどこにいったのだろう。
両氏は旧来の共和党や民主党の枠組みから抜け出し、米国再生の道を示し有権者の判断を求めてほしい。未曽有の危機を解決するには過去にとらわれない発想の転換が必要だ。
毎日新聞 2008年10月19日 東京朝刊