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社説

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安保理入り―核軍縮と平和構築に力を

 国連安全保障理事会の非常任理事国に、日本が当選した。選ばれたのは10回目で、192の加盟国のなかで最も多い。アジア枠の議席をイランと争い、158票を集めて圧勝した。

 国際社会の日本への期待のあらわれ、と受け止めたい。アジアの代表としての外交努力をいよいよ強めなくてはならない。

 国連安保理は、世界の平和と安全の維持に主要な責任を持ち、その決定は加盟国を拘束する。前回に日本が非常任理事国だった06年には、北朝鮮による弾道ミサイル発射や核実験があり、安保理で非難決議、制裁決議が採択されたことは記憶に新しい。

 今回も日本が最優先に取り組むべきは、核軍縮と不拡散だ。米印原子力協定の締結など、核不拡散条約(NPT)体制を空洞化させかねない動きが続く。非核を国是とする日本にとって深刻な事態だ。

 任期中には、イランの核開発問題がヤマ場を迎えそうだ。グルジア問題を機に米ロの対立が深まる中、安保理を分断しかねない難題である。米国の同盟国で、イランとも友好関係を持つ日本は難しい判断を迫られるだろう。北朝鮮の核開発問題も、6者協議の行方次第で、安保理で論議される場面が出てくるかもしれない。

 日本は今年も核廃絶に向けた核軍縮決議案を総会に提出した。94年以来、毎年、この決議は採択されている。核軍縮の国際世論を盛り上げつつ、国際原子力機関(IAEA)による査察の強化など、実効性のある措置を安保理で求めていきたい。

 国連平和維持活動(PKO)を決めるのも、安保理だ。PKOや政治ミッションは各地で急増しており、世界に約8万8千人が展開している。日本はPKO予算の16.6%を負担して2位だが、要員の派遣では82位にとどまっている。これではいけない。できる分野や領域で、もっと積極的に参加することが可能なはずだ。

 テロや紛争を絶つためには、非軍事分野での平和構築の努力も欠かせない。日本は2年前に発足した国連平和構築委員会で、中心となる組織委員会の議長を務めてきた。和平を達成した国で紛争が再発しないよう、国際社会が関与を続ける仕組みだ。アフリカの4カ国で成果を上げている。人々の生命や人権を守る「人間の安全保障」を高めて、紛争地に平和を定着させていく必要がある。この視点を安保理でアピールしていきたい。

 懸案の安保理改革をめぐる政府間交渉が、来年から国連総会で始まる。常任理事国入りを目指す日本政府は好機と意気込んでいる。ただ、大国の思惑もからんで、交渉の難航は必至だ。まず非常任理事国として、日本外交の力量と実績を世界に示すことだ。

野球選手の流出―大リーグと競う魅力を

 これが日本の野球をもり立てる策だというなら、ピント外れもいいところだ。プロ野球界は、国内のドラフトを避けて直接、米大リーグを目指す選手へのペナルティーを打ち出した。

 日本でのドラフト指名を拒否して米球団などと契約した選手は、その後海外から戻ってきても数年間は日本の球団入りを認めない、という。人材流出の悩みは理解できるが、ずいぶんとけち臭いルールを作るものだ。

 より高いレベルに挑戦したい。選手がそう考えるのは自然な欲求だ。なのに「一度そでにしたら、あとの面倒はみない」といわんばかりである。

 規約作りは9月、急きょ始まった。有力なドラフト候補である田沢純一投手(新日本石油ENEOS)が米国挑戦を明らかにし、日本の12球団に指名の自粛を求めたからだ。しかも、新しい規約を田沢選手から適用するという。嫌がらせのような泥縄式のルールは、すぐに白紙撤回すべきだろう。

 これまで日米間ではスカウトを巡る正式な規約がなかった。紳士協定として、表向き、互いにアマ選手への勧誘活動は控えてきた。

 日本の球界は今回の規約作りで、ドラフト拒否選手へのペナルティーと同時に、米球団のスカウトにも日本球団と同じ登録制の導入を検討する。米国からの勧誘に一定の枠をはめようとする意図なのだろう。

 日本のアマ球界は昨年、西武球団による裏金問題で大混乱した。その反省から野放図な勧誘活動にくぎを刺すのは当然だが、お墨付きをもらった米側の活動は、今後さらに盛んになると考えるのが自然だろう。

 日本の球界は人材の出入りを縛るのではなく、流動性を高めるすべを考えた方がいい。例えば、自由に契約先を選べるフリーエージェント(FA)の権利を得る年数を、現行の7〜9年から米国並みの6年に短縮することだ。そうすれば大リーグを目指す選手にとっても、プロの第一歩としての日本球界入りが魅力的な選択肢になる。

 逆に米国の有望なアマ選手も積極的に誘いたい。移動やプレー環境の厳しい米国のマイナーリーグよりも、待遇がよくて投手のレベルも高い日本で力をつけた方がいい。そう考える選手も少なくないはずだ。

 球場や選手の環境を充実させ、選手とファンにより魅力的なものにする方策作りにこそ、力を注ぎたい。

 巨人戦のテレビ視聴率は苦戦しているが、西武、オリックス、日本ハム、ロッテ、楽天と地域密着を掲げるパ・リーグは昨年より観客を増やした。日本野球の将来性はまだ十分にある。

 日本の野球を大リーグと堂々と渡り合える、魅力あるものへと育てていく。グローバル化の時代は、そうした視点を日本球界に求めている。

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