金融危機回避に向けて、急きょ、予防的に公的資金を地銀などに導入できる「金融機能強化法」(3月末に廃止)の復活をぶち上げた麻生首相と中川昭一財務・金融相。だが、図らずも逆効果をもたらした。世間は「日本の銀行の実態もそんなに悪いのか」と一気に不安に陥っている。実際に銀行の現状を洗ってみると、地銀を中心にただならぬ事態であることが分かった。
●不動産・建設融資が多い29行の明暗
上場地銀87行のうち3分の1にあたる31行が、08年9月決算で業績を下方修正し、12行が最終赤字に転落した。銀行経営にイエローカードが出た状況といえるだろう。その原因は、不動産や建設向け融資が焦げ付いたためだ。
代表格が地銀最大手、横浜銀行だ。通期の不良債権処理コストが予想の3倍以上に膨らんだことで、09年3月期決算を大幅に下方修正した。
9月末までの処理コストの約70%が不動産・建設向けというから驚く。マンション分譲のスルガコーポレーションなどの大型倒産が響いた格好だ。
こうなると、気になるのは銀行の不動産・建設向け融資だ。貸出比率の高い銀行を拾ってみた(別表)。
データは銀行が9月中間期決算を発表していないため、いずれも08年3月期時点のものだ。貸出比率が高いから“危ない銀行”と決め付けることはもちろんできない。
しかし4月以降、倒産の増加で不動産・建設向けの不良債権処理コストが膨らんでいるのは明らか。別表に横浜銀がリストアップされていないのは、貸出比率が17%と低かったからだが、むしろ08年3月末でこのレベルにありながら、わずか半年で巨額の不動産・建設向け融資が焦げ付いたのだから事態は深刻だ。
「不動産・建設向けの不良債権の処理コストは一般に、大手銀行で60%、地銀で80%に膨らんでいるとされ、08年4―9月期は前年同期比で2倍増になると指摘されている」(民間調査大手の東京商工リサーチ)という。
野村証券金融経済研究所によれば、87行の不良債権処理コストは08年4―6月期で前年同期比2.3倍の約1520億円にのぼり、地銀の経営状況は極めて悪化している。由々しき状況と言わざるをえない。
地銀を含め金融機関の動向から目が離せない。
【不動産・建設向け貸出比率の高い主な銀行】
◇郷銀行名/貸出比率(%)
◆八千代銀行/39
◆静岡中央銀行/35
◆東日本銀行/35
◆長崎銀行/32
◆沖縄海邦銀行/30
◆神奈川銀行/30
◆あおぞら銀行/28
◆中京銀行/28
◆東京スター銀行/28
◆三重銀行/28
◆千葉興業銀行/26
◆西日本シティ銀行/26
◆福岡中央銀行/26
◆筑邦銀行/25
◆京葉銀行/24
◆栃木銀行/24
◆琉球銀行/24
◆茨城銀行/23
◆清水銀行/23
◆池田銀行/22
◆島根銀行/22
◆豊和銀行/22
◆岐阜銀行/21
◆東北銀行/21
◆もみじ銀行/21
◆熊本ファミリー銀行/20
◆東和銀行/20
◆徳島銀行/20
◆びわこ銀行/20
*貸出比率は08年3月期単独決算ベース
データは東京商工リサーチ調べ
(日刊ゲンダイ2008年10月16日掲載)