麻生太郎首相が、政府与党会議で追加経済対策の取りまとめを正式に指示した。二〇〇八年度補正予算の成立を受け、次の対策に乗り出した。
世界的な金融不安によって株価が乱高下している。景気後退の恐れが強まった。首相は成立した補正予算は、政府の八月末に決定した総合経済対策を実行するための追加歳出一兆八千八十一億円を柱とするが、その後起こった金融危機によって状況は深刻化し、さらなる対策が必要と繰り返していた。
首相は、追加経済対策の狙いを世界的な金融危機の悪影響を緩和し、景気浮揚を図るとし、重点項目として生活者と金融・中小企業、地方の三分野を掲げた。「生活に直結する影響をどう予防するか真剣に考えなければならない」と強調し、追加対策を「生活対策」と名付けた。
政府は米国発の金融危機に、日本経済の基礎的諸条件は強固だとの判断から積極的な対策を取ろうとしてこなかった。日本株が大きく売り込まれ、暴落したのは危機対応が甘い政治への不信感が背景にあることは間違いなかろう。
世界同時不況が現実味を帯び、日本経済をけん引してきた輸出産業の業績が急速に悪化するとの悲観的見方が支配しだした。何としても実体経済への悪影響を食い止めるとの政治の意志を示さなければならない。
追加対策では〇八年末で期限が切れる住宅ローン減税の拡充・延長や証券優遇税制の延長などの政策減税を検討する。また金融安定と貸し渋り是正のため金融機関に資本注入する金融機能強化法を復活させる。
さらには、八月の総合経済対策に盛り込んだ所得税などの定額減税の規模も詰めることにしている。中小企業向け信用保証枠の拡大や防災関連などの公共事業も加える。年明けの通常国会に、〇八年度第二次補正予算案を提出する方向だ。
矢継ぎ早の補正予算で気を付けるべきは、ばらまきに陥らないことだ。過去の補正予算では当初の狙い通りの効果が上がらず、いたずらに財政赤字を膨らませた苦い経験がある。
今回も、例えば定額減税を実施しても、生活不安が高まっていれば減税分は消費よりも貯蓄に回り、景気を回復させる効果は乏しくなろう。過大な公共投資に走れば赤字国債の増発を招きかねない。
衆院解散・総選挙をにらみ、あめ玉をばらまくような目先の対策を打ち出すべきではない。日本経済を、外需頼みから内需主導に切り替える構造転換の布石にすることが重要だ。
大詰めを迎えた米大統領選の民主党候補オバマ、共和党候補マケイン両上院議員による最後のテレビ討論が行われた。支持率で劣勢に立たされるマケイン氏は最後まで有効な決定打を放てなかった。
両氏のテレビ討論は三回行われ、イラク問題、エネルギーや温暖化対策などテーマは多岐にわたったが、論戦の中心となったのは金融危機に陥った米経済の立て直しだった。
現在の金融危機が戦前の大恐慌以来という認識に違いはない。オバマ氏は「マケイン氏は国民にとって重要な経済政策でブッシュ大統領を精力的に支えてきた」と厳しく批判。マケイン氏は「私はこの国の経済を新しい方向に導く」とブッシュ時代からの脱却を宣言した。
激しい応酬があったのは双方の減税政策に関してだ。マケイン氏が「オバマ氏の減税策は中小企業にとっては増税」と批判すれば、オバマ氏は「労働者の95%が恩恵を受ける」と反論した。深刻な金融危機の最中の討論だけに、もっと踏み込んだ金融政策も語ってほしかった。
ブッシュ政権の経済政策を批判するオバマ氏に、共和党のマケイン氏の旗色が悪かったのは否めない。最後の討論では、マケイン氏がオバマ氏を激しく攻撃する場面が目立った。
米CNNテレビが実施した緊急世論調査では、オバマ氏が優勢とする人は58%、マケイン氏は31%だった。金融危機を追い風にしてオバマ氏が史上初の黒人大統領へ一歩近づいた。
今後は人種偏見の壁を乗り越えられるかが焦点だ。世論調査で黒人候補への支持率が実際の票より高く出る「ブラッドリー効果」も指摘されている。安心はできない。十一月四日の投票日へ向け両候補の真剣な論戦を期待したい。
(2008年10月18日掲載)