即席めん製造のマルタイ(福岡市)の看板商品、棒ラーメン。3分もゆでれば、おいしく食べられる。その棒ラーメンの商品力を信じ、同社は長年の商慣習を見直した。店頭価格の値引き分を補うため、小売業者に支払ってきたリベート(販売促進費)を今年1月から、大幅に削減。棒ラーメンが値引きされなくなり、消費者から敬遠される懸念もあった。だが丹精込めた商品の価値を自分たちで引き下げ、販売する商法に区切りをつけたかったという。
2食入りの袋詰めで希望小売価格は145円‐。棒ラーメンは、安さも魅力の庶民の味だ。
関係者によると、即席めんの値引き合戦は、バブル経済が崩壊した1990年代前半から目立ち始めた。「価格破壊」という言葉が流行し、大手の食品メーカーが競って販促費を使った。各社は店頭で自社商品の棚を広く取ってほしいと要望。マルタイ幹部も「利益を度外視して販促費を使ってきた」と明かす。
販促費に依存する販売構造は、20年近くたっても変わらなかった。むしろエスカレートし、マルタイでは営業コストのうち、販促費が、従業員約150人分の人件費を上回って最も多くなり、経営を圧迫。2007年7月中間決算では、ついに赤字に転落した。
転機は、思わぬ形で訪れる。原料の小麦粉高騰に見舞われ、今年1月、マルタイを含む多くの即席めんメーカーが商品の約10%値上げを余儀なくされた。「値上げした価格が定着せずに、値下げ競争が始まると、もう倒れてしまう」。広瀬四郎社長(67)は強い危機感を抱き、販促費の大幅削減を決断。社員が小売店を回って過剰な値引きを抑えるよう要請した。
広瀬社長は、不安だった。値上げした上、販促費を削れば実質的な値上げ幅はさらに大きくなる。棒ラーメンは、棚の隅に追いやられるのではないか…。だが棒ラーメンなら、希望価格でも売れると信じた。福岡銀行から顧問としてマルタイに入り、01年から社長を務める。「学生時代、安くても十分空腹を満たしてくれた」という棒ラーメンの商品力に寄せる信頼は、仕事で接するうち強くなったという。
主力の棒ラーメンは、130円から145円に値上げされた。
売れた。値上げ前よりも、もっと売れた。2‐7月の売り上げは前年同期比27%増を記録。広瀬社長は「値引きしなくても、味と量との見合いで割安感を持ってもらえている」と話す。今年7月中間決算で同社は2年ぶりに黒字を計上した。
売れた背景には、値上げ直後のために大手メーカーも販促費を手控えたこともあるようだ。今後大手が再び販促費を使い始め、なし崩し的に値下げの波に巻き込まれることも予想される。営業の前線に立つ社員たちから、販促費の復活を求める声が上がるかもしれない。その時には広瀬社長は、他社が追随できない「割安感」をもつ棒ラーメンの強さを話そうと思っている。そして、「大丈夫」と励ますつもりだ。
(経済部・坂本公司)
=2008/10/18付 西日本新聞朝刊=
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