「期限の切れる派遣の人を雇い続けるにはどうすればいいのか」。今春以降、人材派遣会社が製造業の人事担当者向けに開くセミナーが盛況だ。テーマは「09年問題」。工場で働く多くの派遣従業員が09年、期限満了を迎えることを指す。
09年問題の背景には、請負労働者に対し、メーカーが指示、命令する違法行為(偽装請負)が06年に問題化し、製造業の多くが請負を派遣に切り替えたことがある。契約期間に上限のない請負と違って派遣は3年まで。一部の職種を除き、3年を超えると、直接雇用か、請負契約に切り替えなくてはならない。
だが、請負の場合、メーカー側は直接、作業内容を指示できず、製造手法の改善や新製品導入など、生産ラインの頻繁な変化に対応しにくい。そのため「脱法行為」で派遣を長く雇おうとするメーカーも現れた。埼玉県内の自動車部品メーカーで働く男性(27)は7カ月の間に2回、雇用形態を変えられた。最初は、埼玉労働局から偽装請負の疑いを指摘された07年9月、派遣から直接雇用の期間従業員に。ところが4カ月後の今年1月、「派遣に戻らなければマンスリーボーナス3000円の上乗せができなくなる」と言われ、もとの派遣社員に戻った。
厚生労働省は、派遣終了後、再び派遣労働者として受け入れるまでの期間が3カ月以内の場合、「継続派遣」とみなしている。これを逆手にとり、3カ月を超えて直接雇用した後、再び派遣に戻す脱法行為が広がった。メーカーは「労働局からの指摘を受け、緊急措置として直接雇用しただけ」と反論するが、男性は「派遣会社の担当者から『再び派遣で雇うため、3カ月以上直接雇用した』と告げられた」という。脱法行為けん制のため厚労省は9月26日、派遣労働者を一時的に直接雇用し、再び同じ派遣業務に戻すのは「職業安定法違反にあたる恐れがある」との通達を出した。
直接雇用を模索する動きも出ている。大手派遣のフルキャストを利用していた自動販売機管理「三和ベンダー」(東京都千代田区)は昨年8月のフルキャストの業務停止を受け、派遣社員10人を直接雇用のアルバイトに切り替えた。担当者は「派遣会社への手数料がいらないので人件費は安くなり、逆に手取り給料が増える。定着率も高まった」と話す。
ただ、直接雇用への切り替えの大部分は、アルバイトや期間工などで、正社員との待遇の差は大きい。派遣社員らで作る労働組合「派遣ユニオン」は「09年問題を機に、同じ会社で同じ仕事をしているのに待遇が違うという差別を抜本的に解消すべきだ」と指摘する。
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■ことば
請負は、メーカーなど注文主と契約した人材会社が、人材会社の労働者に指揮して業務を遂行させる。派遣は、人材会社が注文主に労働者を送り込む点は請負と同じだが、注文主が人材会社の労働者に直接、指揮できる。人材会社が請負契約を交わしながら、実態はメーカーに労働者を送り込むだけで、メーカーの指揮により労働者が仕事をする「偽装請負」と呼ばれる行為がまん延した。
毎日新聞 2008年10月3日 東京夕刊