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さまよう雇用:派遣依存社会/上 「生産調整」で突然解雇も

 ◇消費低迷招き企業も打撃

 「重く受け止めている。春闘で努力はしたい」。東京都内のホテルで9月10日、二階俊博経済産業相から賃上げを要請された日本経団連の御手洗冨士夫会長はこう答えざるを得なかった。御手洗会長は3月にも福田康夫首相(当時)から賃上げを求められている。度重なる政府からの要請は、消費低迷の一因が賃金抑制にあるとみられているからだ。

 東証1部上場企業は08年3月期連結決算で5期連続で過去最高益を更新した。好業績を支えたのがリストラによる人件費の削減。しかし、派遣労働の積極活用と正社員の抑制は、バブル崩壊後の「就職氷河期」を生み出した。93年度から05年度までの有効求人倍率は1未満、正社員に限ると0・5前後の狭き門だった。

 規制緩和政策の代表例とも言われる派遣労働の原則自由化(99年)も流れを加速する。特に、04年の工場派遣自由化に製造業が飛びついた。売れ筋商品を一気に大量生産し、不人気になればすぐに製造中止。生産に合わせた雇用調整が簡単になり、働く側の立場はますます不安定になった。

 派遣先で7年間夜勤を続けうつ病になった埼玉県の女性(29)は、高校在学時の進路指導で担当教諭から「働ける場所があるだけ、うれしいと思え」と忠告された。この言葉が焼き付き、心身が不調になっても、昼間の勤務への変更を申し出ようとは思いもしなかったという。

 首都圏の大手電機メーカー工場で約2年間派遣労働していた男性(42)は、05年7月、生産調整を理由に中途解約された。退職金はない。スピード違反の罰金10万円を払えず「労役場留置で約2週間働いて返した」と振り返る。

 だが、人件費抑制のつけは「消費低迷」の形で企業側にも回ってきた。国内の新車販売台数は05年から3年連続で減少。07年はピーク時(90年)の約7割に落ち込んでいる。大企業の一部で派遣労働を直接雇用に切り替える動きは出ているが、全体の賃金水準を底上げする規模にはなっていない。「経済成長には賃上げが必要」と指摘してきた日本総研の山田久主任研究員は「日本は消費拡大に支えられる本格的な景気回復の好機を逸した」との思いを強くしている。

   ◇  ◇

 政府が99年の派遣労働の原則自由化から9年ぶりに方針を転換し、日雇い派遣を原則禁止する労働者派遣法改正案提出の準備を進めている。派遣労働の急速な拡大は、企業や労働者、社会に何をもたらしたのか。課題を検証する。

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 ■ことば

 ◇就職氷河期

 有効求人倍率が1を切っていた93年から04年ごろを指す場合が多い。95年から01年ごろはさらに倍率が低く、「超氷河期」とも呼ばれた。08年現在の年齢は25~35歳前後。「失われた10年」の不景気で企業が新規採用を抑えたうえ、人口の多い団塊ジュニア世代に当たり、受験、就職などでの同世代間の競争も厳しかった。派遣労働者など非正規社員で働く人が多く、フリーターやニートと呼ばれる層の中心になっている。

毎日新聞 2008年10月2日 東京夕刊

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