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これからの世界のためには、米国中心の国際金融制度を改革することが必要だ。世界をおおう金融危機に対して、欧州連合(EU)首脳会議がこんな方針を打ち出した。
議長国フランスのサルコジ大統領はブッシュ米大統領にこの考えを伝えるため訪米する。主要8カ国に中国やインドなど新興国を加えた拡大首脳会議の開催を求めるという。
欧州がなぜ、金融の新秩序づくりへ攻勢をかけるのだろうか。
公正や公平を重視する欧州社会にはもともと、弱肉強食に走りがちな米国流の市場原理主義を危ぶむ考えが強い。にもかかわらず欧州の金融界は米国の金融ブームに乗ろうと、リスクの高い証券化商品に手を出して痛手を負った。その反省から、米国流を改めたいと考えているに違いない。
この間の危機対策で活躍が目立ったのが、英国のブラウン首相だ。
欧州各国の対応がばらついていたなかで、ブラウン首相はいち早く、主要金融機関への資本注入や銀行間取引の政府保証という大胆な施策に踏み込んだ。さらに仏独首脳と連携しながら、危機対応にもたつくブッシュ米大統領に政策転換を迫った。
ブラウン首相はブレア政権の10年間、財務相を務めた。英国経済の低迷で低支持率に苦しんでいたが、今やその国際的評価は急上昇している。
金融市場の動揺は続き、危機からの出口はまだまだ見えない。スイスやアイスランドなどEU非加盟国へ危機回避の支援を進める。EUとしての金融監督機能を強化する。こうした対策を次々と打っていかなければならない。
それと同時に、危機を脱出したあとの新秩序づくりにも、欧州はいまから取り組もうとしている。
国際金融制度の改革について欧州はこれまでも、取引の透明性強化や規制導入を求めてきた。そしていま、首脳たちは国際通貨基金(IMF)の解体的な改革にまで言及している。
ブラウン首相は「1940年代に国際通貨制度を創設した時に匹敵するようなビジョンが必要だ」と語った。サルコジ大統領も「21世紀の金融システムを再構築する機会を逃してはならない」と意気盛んだ。
これを、欧州の広げた「大風呂敷」だと済ますわけにはいかない。
欧州は戦後60年余り、経済統合の成果を積み上げてきた。単一通貨ユーロは基軸通貨ドルと並ぶ国際通貨に成長しつつある。首脳会議の決定は、米国流資本主義の欠陥を正し、新しい経済のあり方を探るための、欧州の新たな挑戦なのかもしれない。
米国中心の世界の一極構造が、この金融危機を経て、大きく変化する可能性がある。日本もそのことに十分、目をこらしていく必要がある。
「有利に取り扱ってほしい」と政治家が役所に働きかける口利きが、今回もおこなわれていたのかどうか。
浮上したのは、フィリピン人女性の入国ビザをめぐる話である。
土砂災害にあったフィリピン・レイテ島の復興支援のチャリティーコンサートに出演すると称し、興行ビザを取らずに来日した女性たちが、フィリピンパブで働いていた。そんな入国管理法違反や風俗営業法違反の疑いで、静岡県警がパブの経営者らを逮捕し、女性たちの身元保証をしていた民間団体などを家宅捜索した。
捜索を受けた民間団体を事実上、運営していたのが、自民党の倉田雅年・総務副大臣の元公設秘書だったという。それだけでなく、倉田氏と元秘書が女性たちの短期滞在ビザの発給で便宜を図るよう、法務省や外務省に働きかけた、と両省の関係者が証言したのである。
本当に働きかけがあったとするならば、これは見過ごせない問題である。興行ビザの発給が厳しく絞られているなかで、脱法行為を手助けしたといわれても仕方のない行為だからだ。
倉田氏は「働きかけたことはない」と否定している。だが、「チャリティーの件をよろしく」と言っていたという関係者の指摘をどうするのか。
倉田氏は元秘書がコンサートの開催で動いているのは知っていたという。その元秘書は当初、ビザ発給について「支援者から倉田先生に話があり、先生から『調べてやれ』と言われた」と説明していた。ところが、あとで倉田氏の指示を否定した。
事実はいったいどこにあるのか。民間団体とのかかわりやビザ取得をめぐる動きについて、倉田氏にはさらに納得のいく説明をしてもらいたい。
総務副大臣の職にあるのだから、政府としても事情を確かめ、明らかにすべきだ。もちろん捜査当局にも、全体像の解明を望みたい。
もう一つ、今回浮き彫りになったことがある。
日本では以前から、外国人女性をホステスとして働かせる店が多く、「人身売買にあたる」として国内外の批判を浴びてきた。そうしたことがいまだに続いているという現実である。
こうした女性はダンサーや歌手として興行ビザで来日することが大半だったため、興行ビザの発給が05年から厳しくなった。興行ビザで来日する女性は激減したが、今回の事件では、他のビザを隠れみのにしていたわけだ。
こんな抜け道が広まっているとしたら、問題は深刻だ。このまま放っておけば、日本の当局も見て見ぬふりをしているのではないかと思われ、国際的な信用を失うばかりだ。
ここにも踏み込んでいかなければ、根本的な解決にはつながらない。