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金融危機で損をしたのは金持ち? それとも一般庶民?

Business Media 誠

 先週は、株価が日米ともに2割前後下げた。今や「リーマンショック」から一段進んで、「金融危機」という言葉が似つかわしいとも思える緊張感が漂う。日経平均株価は1日平均で500円以上も下げた計算になるが、こうした金融情勢が、個人の生活にどう影響するかと考えると、生活のあり方によってさまざまで、一様でない。

 先週の時事日想でも触れたように、テレビをはじめとする多くのメディアのインタビュー取材で「金融危機は私たちの生活にどのように影響しますか?」と質問されるのは、なかばお約束になっている。

 こうした質問に正確に答えようとすると、「所得階層別に影響は随分異なります」とでも断って説明するしかない。

 例えば富裕層の場合はどうかというと、たぶん、今回の金融危機でほかの階層よりも、かなり大きなダメージを受けているだろう。富裕層は株式や外貨建て資産などリスクを取った運用に回している資産が多い傾向にある。先週1週間に起こった最も大きな変化はたぶん株価の下落だろうから、彼らが一番大きな被害を受けているという見立てに、間違いはあるまい。

 また、多くの富裕層は高額な不動産の所有者でもある。不動産に関しては、2007年の夏にサブプライムローン問題が表面化して、外国人投資家の資金が日本から一斉に引き揚げたため、「不動産ミニバブル」的な状況が一変した。首都圏のオフィス物件の値下がりが著しいし、マンションも価格が下がった。今後も、資金繰りに苦しくなった業者の投げ売りが予想されるため、不動産市場の見通しは暗い。実際に売りに出さなければ不動産の損は見えにくいが、経済価値を考えると、富裕層は相当に損をした(かつ、しつつある)と言えるだろう。世界的な信用収縮の進行は、この状況をさらに悪化させる。

 もちろん「損」は気持ちのいいことではないが、富裕層には経済的な余力がある場合が多い。彼らが直ちに困るわけではないし、何よりも富裕層以外の大多数の人たちから同情を買うとは考えにくい。

階層別に異なる金融危機の影響とマスメディア


 人によって(職業や立場で)異なるが、今回の金融危機の「影響」を考えたときに、インタビューでは答えにくいのが、中間層への影響だ。内外の株価が下がるような状況の背後には、実体経済の悪化がみられるので、冬のボーナスが減るかもしれないとか、来年あたりは企業がリストラに走る可能性もあるといった説明は可能だ。収入の変化が少ない給与所得者の場合(会社員の多くや公務員)、先週1週間で起こった変化の影響を考えると、原油価格が大幅に下落しているし、円高にもなっているから、物価の下落傾向によってはかえって実質所得が増えるといえる。

 さらに欧州の銀行が、不動産関係の証券化商品による損失が大きくて弱体化していることと、急激に悪化が見える欧州景気を受けてユーロが対円でも下落しているため、これまで値上がり傾向だった欧州産のブランド品なども、今後、値下がりに転じる可能性が大きい。株価が下がって高額商品への購買意欲が落ちることが予想されるため、年末の買い物は、買い手にとって有利な状況になっている公算が大きい。

 公務員や大企業の社員、あるいはその配偶者などは、先週の状況で、かえって経済的なメリットを得たかもしれないのだ。

 では、相対的に所得の低い階層はどのような影響を受けるだろうか。

 端的に言って、不景気な時にもっとも失業しやすいのが、派遣や請負で働く労働者のような、雇う側から見て雇用を打ち切りやすい労働者たちだ。今後、日本も失業率がさらに上昇するような状況になる可能性が大きいが、その場合に職を失う人は、この階層の中にいる人が圧倒的に多いはずだ。

 しかし相対的低所得階層にあっても、失業する人は「大いに困る」だろうが、失業に至らない多くの人の場合、現実的に収入などの労働条件が悪化する人ばかりではない。この階層にあっては、同じ階層の中でも、状況が悪化する人(それも大いに困る人)と、そうでない人(物価が下がるのでほんの少し得になる人)に分かれることになる。

 ただ朝の情報バラエティ番組などで、「私たちの生活にどんな影響があるでしょうか?」と言うときの「私たち」は、暗黙のうちに視聴者全体を指している。加えて推察するに、こうした番組の視聴者の多くが「私たち」には自分が含まれていると思いながら、共通の喜びや苦労を背負うことによって、漠然と一体感を感じることが、演出上の目的になっているように思える。視聴者の側もそれを期待しているのではなかろうか。こうした文脈で、金融危機の影響を、所得階層別に分けて解説するというようなことは「野暮」というものだ。

 ただし視聴者の側でも、なかば無意識のうちに「私たち」というくくりがもはや適切でないことを感じているだろう。そうした感覚は、メディアに対する信頼感・一体感を長期的には損なっているに違いない。もちろん、これは広告を通じたメディアの経済価値に対してもマイナスの材料だ。地上波のテレビのような多数を相手にするメディアは、「私たち」という言葉の神通力が消滅しつつあることに対処しなければならないのだが、有効な対策は見つかっていないように思える。

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2008年10月16日 7時00分 (Business Media 誠)

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