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医師は自律機能を発揮できるか

 医療事故調査機関をめぐる議論が続く中、倫理的に反した行為などを行った医師に対して医師の団体が自ら処分を行うなど、医師の自律機能を発揮すべきという声が聞かれるようになった。医療事故などが起こった際に、医師が自ら自浄作用を発揮する姿を見せなければ国民から信頼を得るのは難しく、司法や刑事などの介入は止まらないとする意見だ。そうした機能を医師会に求める声もあるが、「医師会では無理」との見方も強い。今後、医師全体が自律機能の発揮について、組織的に取り組んでいく道筋はあるのだろうか。国内の現状を探った。(熊田梨恵)

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 7月に日本医学会が開いた「診療関連死の死因究明制度創設に係る公開討論会」。帝京大医学部麻酔科の森田茂穂教授は、「医療界に一番欠けているのは、職能団体としての自律作用がないこと。そのため、患者や国民からの信頼を失った。先進国を見ても、米国、ドイツ、フランス、英国、カナダなど、政府から独立した機関で自律作用を持ち、(医師の)処分を実施している。そういった国民に信頼される医療者団体がないのが問題」と述べ、医師の自浄作用の発揮を提案していた。

 では、国内にこうした医師の自律機能についての組織的な動きはあるのだろうか。

 そもそも医師に対する行政処分は、厚生労働省の医道審議会医道分科会が行っている。2007年には、143人の医師や歯科医師に行政処分が科されている。ここでは、犯罪行為などをした医師や歯科医師に対する免許取り消しや医業停止などの行政処分がされているが、すでに刑事罰が確定した後の処分が基本となっているため、独自で不正行為などに対処しようとするものではない。

■医師会には「自浄作用活性化委員会」
 日医では、独自に不正行為事例などについて調査し、結果を医師会長に報告する機能を持つ「自浄作用活性化委員会」の設置を、都道府県医師会や郡市医師会に求めている。郡市医師会だけで対応できない場合は都道府県医師会と連携し、それでも難しければ日医と連携することで、「一致協力して解決に当たることで、すべての不正行為に対応できる体制を整える」(日医ハンドブック『自浄作用活性化推進に向けて』)としている。内容によっては医師会内の「裁定委員会」にかけられ、除名や戒告など処分が科される。

 日医の同委員会の答申やハンドブックによると、似た機能を持った委員会は各医師会で設置されているが、「自浄作用活性化委員会」として設置している都道府県医師会は、栃木、愛知、岡山、香川、山口、神奈川、岩手、滋賀の8医師会。しかしこれまで、委員会が独自に動いて裁定委員会に持ち込んだケースは一件もなかった。ただ、滋賀県医師会では、委員会による動きではないものの、組織として主体的に動き、刑事事件に関して判決前に除名処分を行うという取り組みがあった。これらの医師会の担当者の多くは「委員会は起きた問題への事後対応というより、知識の啓発や普及、倫理教育などを担っている」と認識している。

■倫理指針では処分できない
 また、日医は先月、「医師の職業倫理指針」の改訂版を作成したことを公表した。医療事故発生時の対応や異状死体の届け出などについて基準を示している。日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業への報告や、副作用に関する医師や医療機関の報告義務の内容が盛り込まれている。診療中に医療事故が起こった場合は、「担当医はまず患者の治療に尽くすことが重要。それとともに、患者や家族に対して事情を説明することも大切」とした上で、診療記録の改ざんなどを禁止し、訂正する場合は誰が何について訂正したかを分かるようにすべきとしている。

 羽生田俊常任理事は、指針の改訂版発表時の記者会見で、「これに反したからどうという規定があるわけではない。個人がどこでどのようにしたかなどは、日医からは状況がつかめないので、郡市医師会や都道府県医師会を中心に対応していただく。対応しきれない場合は相談に乗る。現在は、日本医師会で特別に対応することはできない状態」と述べた。

 しかし、ある郡市医師会の理事は、「基本的にこの指針に反する行動があったとしても郡市医師会での対応は不可能だ。医師会はそもそも任意加入の団体で、郡市医師会も会員同士の親睦や相互扶助などが事業内容。何か(指針に)反する行動をとった会員がいたとしても、処罰などは考えられないし、会員も処分されることなどは想定していないだろう。あったとしても除名などだろうが、そういったことはしたことがない。この冊子も、日医から山のように送られてくる冊子の一つ」と話している。

■病院にはインフォーマルな自浄作用?
 病院ではインフォーマルな方法で、事実上自浄作用が発揮されてきたとする意見がある。虎の門病院泌尿器科部長の小松秀樹氏は、「病院では、表面には出ていないが、雇い主が働かせられないと思った医師に対しては、なんらかの方法で辞めさせるなど、相当厳しい対応を取っている」と話し、自身の病院でもそうした対処を見てきたとした。ただ、大学病院については新臨床研修制度が始まって以来医局の機能が弱くなり、結果的にこのような機能が働かなくなってきているとの指摘もある。

■諸外国の例
 では、諸外国の例はどうか。
 ドイツでは、医療に関する規約の作成や、その規約に違反した医師に対する処分は、強制加入の州医師会など医師独自の組織が担っている。「ドイツ医師のための職業規則」に違反した場合は、医師による「職業裁判所」で戒告や被選挙権の剥奪などの処分が下される。
 米国では、任意加入の医師組織「アメリカ医師会」に「倫理・司法問題審議会」があり、倫理行為に違反した医師などに対して会員資格のはく奪などの処分を行っている。また、英国では、医師は身分団体に加入しなければ医業が行えないことが法的に定められており、この職能団体が除籍や医業停止などの懲罰権限を持っている。

■医師全体に対する新しい自律組織が必要
 こうして見ると、医師がそれぞれの場で自浄作用を発揮する、あるいは発揮しようとする取り組みは見られるものの、諸外国のように医師全体として国民に見える形で自律的に処分を実施する体制はない。

 1年以上前から医師の自律機能発揮を主張してきた小松氏は、「自律的な医師の適性審査体制を新しくつくらねばならない。単一の網羅的な大制度を最初から作る必要はなく、やれるところからやればよい。それには、病院団体に期待している。病院団体や学会などがまとまって、処分の実情を調査したり、それぞれの病院がやっていることを、無理のない形で制度化するにはどうすればよいか検討するような、議論の場を作らなければならない」と訴える。
 また、ある大学医学部教授は、「医師が自らの組織内部で処分を行うというのは相当なリスク。日本弁護士会のように強制加入にすべきという意見もあるが、そうなると『疑わしきは罰せず』となって刑事事件だけが処分の対象になるなど、事実上機能しなくなる。病院団体と連携して、学会で除名処分や専門医のはく奪などができるようにするのも手だ」と話す。

 正当な医療行為に対する免責を主張する声がある一方で、医師の自律機能を発揮すべきとの声も高まってきた。医師全体として、国民に見える形で自律機能を発揮する日は、いつかやってくるのだろうか。


更新:2008/10/17 17:05   キャリアブレイン


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