与野党にとって、ひとつの区切りである。日米株式市場が再急落する中、臨時国会で審議されていた08年度補正予算が成立した。焦点である衆院解散、総選挙について、与党幹部からは来月下旬の投開票を示唆する発言がここにきて目立ち始めている。
成立を受けて麻生太郎首相は追加景気対策の策定を政府・与党に指示した。定額減税などの国会への提出は来年の通常国会になる見通しだ。依然として市況は波乱含みの様相だが、経済対策に腰を据えて取り組むには選挙を経た本格政権がやはり必要だ。首相は年内の衆院選実施をためらわず決断し、各党は争点の明確化に努めるべきである。
首相が内政、外交でどんなビジョンを抱いているかが注目された予算委員会審議だったが、答弁は期待はずれだった。
特に疑問を抱かせたのは、首相が景気対策の目玉と位置づける定額減税について、規模や財源を明確にしなかった点だ。赤字国債発行に慎重姿勢を示す一方で、「埋蔵金」と言われる特別会計の活用についても態度ははっきりしない。では、どうやって高速道路料金大幅引き下げも含めた財源をひねり出すのか。これでは、所信表明演説で民主党の経済対策に「財源を明示してほしい」と挑発した言葉が、自らに返る。
後期高齢者医療制度の見直しも政府答弁から具体的方向は示されなかった。官僚の天下り対策である官民人材交流センターについて首相が「昨年設立されたと思う」と間違って答弁するなど、知識のあやふやさも目立った。質疑では全般に選挙を意識した宣伝合戦が多く、掘り下げた論戦が展開されたとは言い難い。
金融危機や選挙情勢への与党の懸念が広がる中、首相は当初予定した国会での冒頭解散戦略を修正し、選挙を先送りした。確かに市場動向に細心の注意を払い、金融危機に即応し続けなければならない。
だが、今国会で税制も含めた本格的な対策を講じることは時間的に困難と首相も答弁で認めている。「解散よりも景気優先」という論法は正論のようだが、衆院解散をめぐる駆け引きに与野党がエネルギーをいつまでも費やし続けることこそ、党利党略による政治空白ではないか。政府・与党が追加対策の規模と財源を明示したうえで、年末の来年度予算編成に支障を来さない時期に選挙を実施することが望ましい。
民主党も、インド洋で海上自衛隊が給油活動を継続するための新テロ対策特措法改正案の審議日程をめぐる対応などに疑問を残した。早期の衆院解散を求める計算が先走るばかりに政策がなおざりになり、国会の与党ペースを助長するのでは、本末転倒だ。衆院解散の時期が見えぬからといって、マニフェスト(政権公約)の公表も遅らせてはならない。
毎日新聞 2008年10月17日 東京朝刊