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2008年10月17日

 ノーベル物理学賞に決まった南部陽一郎さんを、文科省は公式の統計では「米国人」扱いする、と決めた。70年に米国籍を取っているからである

もっとも、受賞対象になったのは60年代の業績だから、日本人受賞者から南部さんを仲間外れにはしない。より良い研究の場を求めた「頭脳流出」が、こんなややこしい話を生んだ

化学賞の田中耕一さんが、富山に里帰りした時に話したことを思い出す。英国での研究を終えた田中さんが帰国して、「あれっ」と思ったのが、街行く人の姿勢だった。背を丸め、うつむいて歩く人が、やたら目に付いた。背筋をピンと伸ばして歩く英国人を見慣れた目に、母国の人はいかにも頼りなげに映った

だから、受賞が日本人の励みになればいい、と田中さんは語ったのだが、金融危機をはじめ暗いニュースの多い昨今、背筋はなかなか伸びそうにない

南部さんのような頭脳流出組が減少している、と聞いた。招かれる人材が減り、研究者の意欲も縮んでしまったのだろうか。街では、うつむき加減どころか、背を丸めて道端にしゃがみ込む若者を見慣れて久しい。


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