金箔(きんぱく)に包まれたまばゆいばかりの空間。白く光る夜光貝の螺鈿(らでん)と蒔絵(まきえ)で埋め尽くされた美の世界に圧倒された。光に満ちあふれた「巨大な工芸品」の趣だ。
岩手県・平泉の中尊寺を訪れる機会を得た。圧巻は国宝の金色堂である。全体が密封されたガラスケースに納められ、徹底した温度、湿度の管理がなされている。
中尊寺は平安末期、奥州藤原氏の初代清衡によって、東北北部で起きた内乱の死者の霊を慰め浄土に導くために造営された。堂塔はほとんど焼失、創建当初の堂宇は金色堂を残すのみだ。
「五月雨の降り残してや光堂」。松尾芭蕉が「奥の細道」の旅でこう詠んだ句碑が近くに立つ。時の流れを超えて光彩を放つ金色堂のたたずまいに、清衡の志の永遠なるものを見たのかもしれない。
日本政府が推薦していた「平泉の文化遺産」の世界遺産への登録が、今夏見送られた。「浄土思想を基調とする文化的景観」の価値が十分証明されなかったためらしい。文化庁が十四日開いた専門家会議では、世界遺産としての意義付けを大幅に見直した上で、三年後の登録を目指すことになった。
「浄土思想」はわかりにくい。が、根底にあるのは尊さを認め合う「非戦」の祈りと聞いた。地元関係者が平和への思いをもっとアピールすべきとの感を深くした。