ブッシュ米大統領は国内の大手金融機関に公的資金で資本注入することを柱とした金融危機対策を発表した。これで先進七カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)で合意した行動計画に沿った欧米の金融安定化策が出そろったことになる。
議会に米政府が通告した公的資金枠は三千五百億ドル(約三十五兆円)で、シティグループなど大手九社は年内に総額千二百五十億ドルの注入を受けることになる。英国やドイツ、フランス政府が発表した金融大手への資本注入総額は約二十三兆五千億円に上る。
米政府が金融機関の直接救済に踏み切るのは、戦前の大恐慌期以来のことになる。ブッシュ政権は当初、今月初めに成立した緊急経済安定化法による不良資産買い取りを危機対策の柱に据え、政府が民間企業の救済に直接乗り出すことには消極的だった。しかし、株価暴落を受け、G7諸国が資本注入に足並みをそろえたため、政策転換を余儀なくされた。
米の資本注入は安定化法で認められた七千億ドルの一部で、政府が議決権のない優先株を購入する。注入は金融機関の自主申請だが、事実上は政府が強制した形だ。
このほか、当座預金の全額保護、銀行や貯蓄金融機関が資金調達のため来年六月末までに発行する債券を連邦預金保険公社(FDIC)が保証、銀行間市場の不安を和らげる対策も盛り込んだ。迅速な実行が何よりも重要である。
週明けの株式市場は、G7で打ち出された公的資金注入合意などの対策をきっかけに反発し、世界的な株安の連鎖に一応の歯止めをかけることはできた。しかし、サブプライム住宅ローン問題の根底にある米住宅不況が底を打つ兆しはない。金融機関の不良資産拡大と厳しい経営環境も続き、金融情勢は安定とはほど遠い状況だ。
このまま資本注入が行われても、金融機関の経営が急回復することは望めず、貸し渋りが長引く恐れがある。中小や零細企業への借り入れ支援策などで実効性ある対策を打たなければ、景気の回復につなげるのは難しいだろう。
米国の金融機関の正確な損失額や保有資産の実態開示には不明な部分が少なくない。金融混乱が実体経済に影響してくるのはこれからとみられる。企業倒産の増大などで金融機関の保有する資産を劣化させる恐れが強く、今後も資本の再注入を迫られる可能性もある。米国はためらってはなるまい。先進国だけでなく新興国も含めた政策協調も重要となろう。
またもや中国製か、とうんざりする。中国製の冷凍インゲンを食べた東京の主婦が健康被害を訴え一時入院し、インゲンから極めて高濃度の殺虫剤が検出された。不安と憤りが募る。
厚生労働省によると、同じ商品は過去一年間に二百六十五トンも輸入されている。店頭から商品の撤去や回収が進んでいるが、家庭の冷蔵庫などに保管している人もいるはずだ。くれぐれも口にしないよう、注意してもらいたい。
保健所などの調べでは、主婦は十一日に冷凍インゲンをスーパーで購入した。十二日に解凍して食べたところ、異様な味とにおいで吐き出した。その後、口のしびれや胸のむかつきなどを感じ、救急車で病院に運ばれ一日入院したという。
主婦が口にしたインゲンからは、国が輸入を許可する上限基準値の三万四千五百倍に当たる有機リン系殺虫剤のジクロルボスが検出された。耳を疑うような驚くべき高濃度である。
ジクロルボスは中国や日本で農薬などとして使用されている。吸い込んだり皮膚に付着しただけで頭痛や呼吸困難を引き起こすなど急性の毒性が強いため、劇物に指定されている。
通常は水などで千倍程度に薄めて散布する。今回、検出された濃度は原液に近い数値とされる。残留農薬とは考えにくく、警視庁は人為的混入や重大な過失の疑いで捜査を始めた。一刻も早く原因を突き止め、再発防止につなげなければならない。
中国製の冷凍食品についてはギョーザ問題が記憶に新しく、まだ未解決のままだ。日本の消費者の不信感は再び高まろう。日中の関係機関はあらためて連携強化を図り、情報の共有化や捜査協力を進める必要がある。特に中国には誠意ある対応を求めたい。
(2008年10月16日掲載)