グッド・イブニングAmerica

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グッド・イブニングAmerica:事実と本当っぽさ=大治朋子

 取材相手の白人男性と雑談していた時のこと。彼は、民主党大統領候補のオバマ氏について、「イスラム教徒だ」と真顔で言った。

 オバマ氏はキリスト教徒だと公言している。大手メディアも繰り返し報じている。だが一部の保守系ラジオ番組は、「イスラム教徒だ」と言ってはばからない。インターネットの世界でも、デマが横行している。

 そのせいか、オバマ氏を「イスラム教徒」と信じている人は意外に多い。米ピュー・リサーチ・センターの世論調査(先月18日発表)によると、その割合は有権者の13%。今年3月は10%、6月は12%で、微妙に増えている。

 一見合理的なイメージの強いアメリカだが、実はデマが浸透しやすい。新聞もテレビも見ない人が多いのか、そもそもメディアを信じない人が多いのか分からないが、同じようなことはイラク問題でも指摘された。米誌「ニューズウィーク」の世論調査(昨年6月)で、イラクのサダム・フセイン元大統領の政権が01年の米同時多発テロに「直接関与した」と信じる人は約4割。04年から5ポイント上昇している。

 米国では大統領選を間近に控え、大統領候補のマケイン(共和党)、オバマ両陣営がテレビ広告で真偽不明の情報を流している。オバマ氏の信教問題のように、一部は事実であるかのように独り歩きしている。コラムニストらはそれを、「Truthiness(本当っぽさ)」と冷やかしている。

 本当っぽさ--。米国の人気テレビ「コメディ・セントラル」の司会者、コルベール氏が05年に番組で口にした造語だ。米国人の一部は事実よりも真実であってほしいという思いで「本当っぽさ」を作るという皮肉を込めた言葉だ。流行語大賞を受賞し、米国社会を説くキーワードとしてメディアが相次いで特集を組むほど話題になった。

 コルベール氏によると、米国は「頭で考える人と、心で知る人」に分かれるという。例えばイラク戦争なら、「頭で考える人」は、大量破壊兵器が見つからなかったので米国が戦争を始める根拠はなかったと考える。だが、ブッシュ大統領のような「直感の人」は事実より、本当であってほしいことを信じるのだという。翌06年、世論調査でまだ半数の人が「イラクに大量破壊兵器はあった」と信じていることが分かり、この造語が改めて注目を集めた。

 事実と本当っぽさ。大統領は、事実を重視する人であってほしい。(北米総局)

毎日新聞 2008年10月6日 東京夕刊

 

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