コラム
新連載スタート! 山崎元の時事日想:
クビと辞職、どちらがトク? 外資系金融のリストラについて考える (1/2)
サブプライムローン問題などの影響で、外資系金融機関で働く人にとっては“逆風”が吹いている。ある調査によると、この1年間で約4%の外資系金融マンがリストラされたという。しかし慌てることはない。クビを宣告されても意外なメリットがあるかもしれない。それは……。
[山崎元,Business Media 誠]
著者プロフィール:山崎元
経済評論家、楽天証券経済研究所客員研究員、1958年生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱商事入社。以後、12回の転職(野村投信、住友生命、住友信託、シュローダー投信、バーラ、メリルリンチ証券、パリバ証券、山一證券、DKA、UFJ総研)を経験。2005年から楽天証券経済研究所客員研究員。ファンドマネジャー、コンサルタントなどの経験を踏まえた資産運用分野が専門。雑誌やWebサイトで多数連載を執筆し、テレビのコメンテーターとしても活躍。主な著書に『会社は2年で辞めていい』(幻冬舎)、『「投資バカ」につける薬』(講談社)、『エコノミック恋愛術』など多数。ブログ:「王様の耳はロバの耳!」
人材紹介を手掛けるエグゼクティブ・サーチ・パートナーズ(ESP)の調査によると、日本の外資系金融機関で、過去1年間に1109人がリストラされたという(「朝日新聞」8月25日朝刊)。証券・銀行からヘッジファンドまで含めて、日本の外資系金融機関の従業員は2万7819人だったというから、全体の4%弱が1年間でクビの憂き目を見たことになる。聞き取り調査などによるものとのことだが、よく調べたものだ。
もっとも、調査がいう「リストラ」の定義は微妙だ。外資系金融機関を「クビまたはクビ同然に」辞めた人は、もっといるのではないか。外資系の金融機関で社員を辞めさせるときには、会社からはっきり「解雇」を告げるケースばかりではない。自分から辞めるようにし向けられて退職を願い出るケースが少なくない。こうしたケースも含めると、「実質的なクビ」は、もっといるだろう。
もっとも、1人1人の退職理由を明確に分類することは難しい。実質的なクビだが「名誉の自己都合退社」なのか、本当に辞めたい理由があって惜しまれて辞めた自己都合退社なのかの判定は難しい。
分類上の「会社都合」の退職者に絞って4%弱だというなら、概ね納得がいく。過去1年の間には(現在も、だが)サブプライムローン問題があって、外資系金融の撤退や縮小は例年よりも多かっただろう。
クビになれば経歴上「傷」になるのか?
辞め方としては、会社都合の退社の方が、多くの会社の社内規定では退職金が多いし、失業保険は早くからかつ多額に支払われるので、退職者にとっては得な面がある。しかし、1つにはプライドの問題から、もう1つには会社都合で辞めると後の就職に差し障りがあると思う先入観から、自己都合退社を選ぶ人が多数派となっている印象がある。
「会社都合」の退職が経歴上「傷」になるかどうかというのは微妙な問題だ。あえて印象論を言うと「8割以上は問題ない」と思う。次の会社への就職は、あくまでも次の会社の採用権限者の候補者に対する評価次第だ。会社都合でクビになった人の再就職は、そうでない人よりも苦労する場合が多いだろうが、その多くの要因は本人の持つ実力なり印象だ(ビジネスでは、印象も実力の一部だが)。
ただし、外資系の会社が人を採用する場合、「リファレンス」と称して、候補者の昔の上司などに評判を聞く場合が少なくない。この場合に、会社都合退職まで粘って退職金をフルに取ると、上司の印象が悪化することがあり、不利に働く可能性が少しはある。上司の立場から逆に見ると、部下を辞めさせる場合に、部下が自己都合で退職するようにし向けると(会社の支出が少ないし、トラブルにもなりにくいから)、上司の人事上の得点(ないしは減点の軽減)になることが多いということなのだ。つまり、すんなり自分から辞めてあげると、上司も助かるので、リファレンスの電話があった場合には、いいことを言ってくれる(かもしれない)という関係だ。とはいえ、これが自己都合退職に十分見合うメリットになるかどうかはかなり疑わしい。
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