コラム
山崎元の時事日想:
同情する、しない? 外資系金融マンの給料事情 (1/2)
全世界を金融不安に巻き込んだ「リーマンショック」。外資系金融機関のリストラが加速するという指摘もあるが、「彼らは高給取りなので、同情しない」といった厳しい声も。しかし外資系金融マンでもポジションによっては、それほど高い給料をもらっていないようだ。
[山崎元,Business Media 誠]
著者プロフィール:山崎元
経済評論家、楽天証券経済研究所客員研究員、1958年生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱商事入社。以後、12回の転職(野村投信、住友生命、住友信託、シュローダー投信、バーラ、メリルリンチ証券、パリバ証券、山一證券、DKA、UFJ総研)を経験。2005年から楽天証券経済研究所客員研究員。ファンドマネジャー、コンサルタントなどの経験を踏まえた資産運用分野が専門。雑誌やWebサイトで多数連載を執筆し、テレビのコメンテーターとしても活躍。主な著書に『会社は2年で辞めていい』(幻冬舎)、『「投資バカ」につける薬』(講談社)、『エコノミック恋愛術』など多数。ブログ:「王様の耳はロバの耳!」
全世界を巻き込んだ「リーマン・ショック」(米国のリーマンブラザーズ社が破産申請したことを筆頭とする一連の金融市場の混乱)にあっては、いろいろなことが言われているが、その中に「リーマンのような外資系証券会社はもともと超高給取りなので、こと社員に対しては、同情に値しない」といった声がある。
そもそもサブプライムローン問題発生の背景には、金融マンの成功報酬制度に問題があるのではなかろうか。利益を獲得するために、あえてリスクを受け入れるというリスクテイクの行き過ぎが、サブプライムローン問題発生の重要な要因(たぶん根本的には最重要な)だ。なので、特に高額報酬の投資銀行マンの行動様式については、研究する必要ある。しかし研究や金融制度設計の問題を離れて、「同情するかどうか」を考えると、別の側面がある。
フロントとバックでは報酬が大きく違う
身近なところで、日本に進出している外資系の証券会社に勤めている人々の処遇を考えてみよう。端的に言って、日本法人の社員全員が超高給取りで高額所得者だというわけではない。外資系の金融の仕事は、大まかに言って「フロント(オフィス)」と「バック(オフィス)」に分かれる。トレーダーやセールスマンのような直接利益を稼ぐ職種がフロントであり、経理や人事・総務、システム関係(社内では「IT」と呼ぶことが多い)などフロントの仕事を支え、稼ぎに直接は関わらない仕事がバックである。
外資系金融では、そもそも中途採用の人材が多いが、フロントとバックでは処遇の仕組みもレベルも大きく異なる。フロントでは、職種や本人の稼ぎによっては数千万円の年収が珍しくないし、近年は1億円を超す年収をもらうケースが、かつて(例えば筆者が外資系金融にいた10年以上前)よりも格段に増えているようだ。
フロントの年収はベースサラリーとボーナスで構成される。ベースサラリーは固定料であり、高額所得者でもこれ自体は2000〜3000万円程度であることが多い。会社契約の賃貸家賃などを差し引いた金額を12で割って、毎月支払われるのが普通だ。明らかに高額所得者に見える外資マンに年収を聞いた時に、「いや、案外たいしたことはありません。日本の企業の部長かせいぜい平の役員くらいですよ」とか「3000万には届きません」などと答えることがあれば、これはベースサラリーだと考えてよい。
外資勤めの醍醐味は明らかにボーナスにあり、これは、本人の利益への貢献に対して、10%くらいといっためどで年に1度支払われる。個人の稼ぎの額とボーナスの関係は、会社・職種・人事評価(ボスの個人的好みも大いに影響することがある)により異なるが、大まかには比例していて、稼ぎが増えるとボーナスも増える。近年は、動くお金が大きくなっているので、ボーナスが巨額になっていると聞く。また、長年の好況下で外資間の人材獲得競争が激化したこともボーナス条件の全体的レベルを引き上げたようだ。しかし1億円以上を稼ぐプレーヤーとなると、世間が想像するほど多くはないと思う。
そもそも、純然たるフロントのプレーヤーはそう多くない。日本法人に1300人の社員がいると報じられたリーマンでも、社員の半数以上はバックだと思う。彼らにしてみると、「どうせ高給取りなのだから、同情に値しない」と世間から言われがちなことは、かなり不本意だろう。バックの仕事の場合、大まかには日系企業の同種の仕事の5割増しから2倍くらいの年収の場合が多い。年収を単純に12で割る月給か、決まった年収を18で割って毎月支払い、夏冬に3カ月分ボーナスのように支払うというようなケースが多い。1年単位で年収が見直されることが多いが、10年以上全く昇給しなかったなどという事例も聞く。
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