政府が15日の拉致問題対策本部で、北朝鮮へのエネルギー支援を行わない方針を確認したのは、米国の北朝鮮のテロ支援国家指定解除によって、拉致問題解決に向けた日本の対北朝鮮対応がなしくずしになりかねないとの政府の強い危機感によるものだ。しかし、核問題の進展で他の6カ国協議関係国からは日本への支援を求める圧力も強まっている。6カ国協議で日本が核としてきた日米協調も指定解除をめぐってきしみ、拉致とエネルギー支援の板挟みの日本にとって厳しい協議となる。
「また話し合いましょう」。10日夜、ライス米国務長官と中曽根弘文外相の電話協議の最後、中曽根外相はこう念を押した。中曽根外相は、ライス長官に米朝合意の核計画申告の検証について個々の問題点を指摘し、指定解除同意は明言しなかったという。
しかし、ライス長官は指定を解除する条件は整ったと判断。ライス長官から再び中曽根外相を説得する電話はかからないまま指定は解除された。
こうしたライス長官ら米国側の対応に、外務省幹部は「もう少し丁寧な手続きがあってもよかった」と不快感を示した。麻生太郎首相も14日の参院予算委員会で「我々は不満」と米国の対応を批判した。
その一方で、首相は14日、記者団に「拉致の話を進める上でも6カ国協議を開くのは大事だ」と強調した。日本が北朝鮮に日朝関係改善を迫るためには、5カ国の協調をテコにすることが必要で、とりわけ米国の協力が欠かせないという事情を抱えている。拉致対策本部の会合では、中曽根外相が「指定解除されたが、米国は北朝鮮に対するさまざまなカードを持っている」と指摘する場面もあった。
北朝鮮も日本の足元をじっと見ている。6カ国協議の合意では、第2段階で核施設の無能力化と引き換えに重油100万トン相当の支援を行うことになっており、他国はすでに一部実施している。北朝鮮は12日の報道官発言で、第2段階について「5カ国が経済補償を完了することにかかっている」と日本をけん制した。
韓国の6カ国首席代表の金塾(キムスク)外交通商省朝鮮半島平和交渉本部長は12日「日本が重油支援ができる雰囲気が醸成されるよう期待する」と指摘し、中国の秦剛報道官も13日「6カ国協議各国が約束を適切に履行するよう希望する」と述べ、間接的に日本の「約束」実行を促した。
6カ国協議では米国がどれだけ日本側に立つかが孤立を避けるカギになる。その肝心な米国との間にすきま風が吹き、選択肢が狭まる日本は苦しい対応を迫られそうだ。【須藤孝】
毎日新聞 2008年10月16日 2時30分