【第42回】 2008年10月16日
“アルバイト以下”の待遇に喘ぐ
若手正社員の悲惨な職場事情
接客、レジ打ち、品出しや陳列、ズボンの裾上げ……アルバイトでも正社員と同じ仕事を任せてもらえ、甘えが許されないことが楽しく思えた。社会人になった気分で仕事が楽しくて仕方なかった。
アルバイトも正社員も3ヵ月ごとに業務チェックが行われ、仕事ぶりが評価される。真希さんは、3年後、社内ランクがアルバイトでは最高位まで昇格し、時給が1100円に増えた。同様に時給で働いている「準社員」よりも昇格し、一層のやりがいを感じたのだ。
ただし、すべてがよいことばかりではない。同社では、アルバイトは完全なる雇用の調整弁。繁忙期にはどっと人数を増やし、閑散期には人数を絞り込むことで人件費を調整している。そのため、毎週シフトが組み替えられ、実際に働く前の週になってみないと、どれだけシフトに入ることができるかわからず、予定も立てられない。
収入も増減が激しく、多い時は月20万円にもなったが、閑散期は月5万円程度だ。「いくら学生のアルバイトでも、これでは不安定すぎる」と、真希さんは釈然としない思いを抱え始めた。
名ばかり正社員続出の悲惨職場
「内定が取れればよい」は間違い
それでも、雇用調整されるアルバイトがいる一方で、正社員になれば店長になって、高収入を得て……という明るい未来を描くことができるのかといえば、これもそうとは限らない。
彼女の不安が強まったのは、全国で数百店舗のなかでトップクラスの成績を誇る店長が東北地方から異動してきたときのこと。「月に1日程度しか休みがとれず、年収は600万円ほど」と聞いて、ショックを受けた。
真希さんが大学3年の頃、会社は「地域限定正社員」の制度を導入した。店舗でもアルバイトや準社員が地域限定正社員になっていったが、月給15万円と聞いた。交通費も支給されず、実家から通わなければ生活はギリギリだ。結局どの道を選択しても、時給計算ではアルバイトを下回ってしまう。
本社から定期的に店舗を視察にくるエリアマネージャーからは、「卒業後はぜひ、うちの正社員になって欲しい」と言われたが、もはやその気にはなれなかった。
収入もさることながら、女性が働き続けるには労働環境が悪過ぎる。繁忙期には、1日中品出しに追われて店舗を走り回る。本部から頻繁に新商品が送られてくるため、週に1度は重いシルバーのラックを組み替えて陳列レイアウトを変更しなければならない。商品もダンボールごと運べばかなり重い。全てが「体力勝負」の仕事なのである。
「この仕事は若いうちしかできない。女性はせいぜい40歳までが限界かな。『大量採用』『正社員登用』『明確な昇進ルール』という甘い言葉の裏には、何か理由があるものだ」と、真希さんは学んだ。そして、第1希望だった大手不動産会社から内定をもらい、そちらへ就職することに決めたのだ。
世界的な金融危機に端を発する景気後退懸念により、ここ数年間、売り手市場が続いた日本の若者の就職・転職は再び厳しくなりつつある。そのため、うっかり「悲惨な職場」に就職してしまう「名ばかり若手正社員」は、今後ますます増え続けると思われる。
こんなご時勢だからこそ、「安易に内定が出易い企業ばかりを探すのはリスクが高い」ということを、しっかりと肝に銘じるべきだろう。
(労働経済ジャーナリスト 小林美希)
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