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NIKKEI NET

社説1 副総裁の空席埋まる日銀が負う責任(10/16)

 政府は国会に対し、半年余りも1人空席となっていた日銀副総裁に山口広秀理事を昇格させる人事案を示した。野党の民主党も今度は同意する見通しで、日銀首脳陣の欠員が埋まる。米国発の金融危機で世界が緊急対応に追われる中で、遅きに失した決定である。これを機に、政府・日銀は危機克服へ一段と強力に取り組んでほしい。

 日銀副総裁の定員は2人だが、東大教授から日銀入りした西村清彦副総裁の1人だけで白川方明総裁を支える不完全な体制が続いていた。衆参両院で与野党が多数勢力を分け合う「ねじれ」状態で、両院の同意が得られなかったためだ。

 日銀人事をめぐる政治の対応は目に余るものがあった。特に民主党は総裁人事で武藤敏郎前副総裁などの昇格案を「旧大蔵省の次官経験者」という理由で次々と反対した。いちど副総裁に就いた白川氏の総裁昇格まで、20日間にわたり金融政策の最高責任者が不在になった。副総裁人事も民主党は伊藤隆敏東大教授、渡辺博史前財務官の起用案を拒み、長期の「1人空席」が続いた。

 1930年代の世界大恐慌以来といわれる米国発の金融危機は世界市場で激しい株安の連鎖を招き、米欧諸国は大手金融機関に合計60兆円を超す巨額の公的資金を注入する方針を決めた。各国が懸命な対応に追われているのに、日本は中央銀行の異例な体制が放置されてきた。

 日銀の金融政策決定会合は総裁、副総裁2人と審議委員6人の合計9人で構成する。山口氏が副総裁に就いた後も審議委員は1人空席のままだ。池尾和人慶大教授の審議委員起用案に国民新党が「郵政民営化を支持した人物だ」と反対し、当初は同意する方針だった民主党が選挙協力の思惑から態度を一変させた。人事が政治の思惑に振り回されるようでは、中央銀行の信認が問われる。残る審議委員の補充人事も、できるだけ早く決めるべきだ。

 山口氏は金融政策の運営に携わる企画部門を長く経験し、理事として内部管理にも携わっている。白川総裁は日銀内の組織運営を山口氏に託し、自らは国際決済銀行(BIS)で開く中銀総裁会議や海外の中央銀行との連携により多くの時間を割くことができるだろう。

 日銀は目詰まりを起こした銀行間での資金のやりとりを回復させ、世界経済や日本経済の悪化に対して機敏に対処しなければならない。政府との連携も一段と密にして、金融危機の克服に向けた国際的な責務を十分に果たしてほしい。

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