社説

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷
印刷

社説:海自隊員死亡 体質の問題点にメス入れよ

 海上自衛隊の自衛官が、「格闘訓練」中に意識不明となり、その後死亡した。海自警務隊が傷害致死容疑で捜査を開始し、海上幕僚監部も事故調査委員会を設置したが、訓練に名を借りた私的制裁ではないかとの疑いが濃くなっている。真相究明はもちろん、海自の組織的体質を含めた問題点の洗い出しと再発防止策が求められる。

 「事故」が起きたのは9月9日。広島県江田島市の海自第1術科学校で特殊部隊「特別警備隊」の養成課程に所属していた3等海曹(25)が、「徒手格闘訓練」中に倒れ、25日に急性硬膜下血腫で死亡した。「訓練」時には、2人の教官が立ち会っていた。

 徒手格闘訓練は、顔などに防具、拳にグローブを付け、パンチやけり、投げなどで闘うもので、海自呉地方総監部は死亡時、「訓練中の事故」と発表していた。ところがその後、「訓練」は、3曹が15人を相手に1人50秒ずつ格闘する形で行われ、14人目のパンチをあごに受けて倒れたことが判明した。訓練は通常1対1で行われ、海自幹部は「15人を相手にするのは聞いたことがない」と話す。

 3曹は8月に異動を申し出、「事故」の2日後に元の部隊に戻る予定だった。教官は遺族に「(訓練は異動の)はなむけだった」と説明した。しかし、異動直前の隊員への異例の「訓練」は、「脱落者」に対する制裁ではないかとの疑念がわく。浜田靖一防衛相も今回の訓練は「ちょっと特殊なのかなあという気がしないでもない」と語った。

 この養成課程では、別の隊員が5月、やはり異動直前に同様の「訓練」で歯を折るなどのけがをしていたことが判明している。訓練名目の集団暴行が常態化していた疑いがある。

 「事故」後の海自の対応にも疑問がある。呉地方総監部は訓練が「15対1」であったことを直後に把握していたが、死亡時の発表ではこのことに触れなかった。隠ぺいする意図があったのではないかと疑われても仕方ないだろう。

 海自はイージス艦「あたご」の漁船衝突事故など相次ぐ不祥事を受けて独自の対策をまとめる予定だ。今回の事案の調査結果を反映させるのは当然である。

 一方、自衛官の自殺は近年増加している。かつて年間60人前後だったが、04年度以降80~90人台で推移し、昨年度の自殺者数は10万人当たり、全国平均の約1・4倍、一般公務員の約1・9倍に上った。「指導の域を超えた上司の言動」が自殺の原因と認めた判決もあり、いじめやパワーハラスメントによるとみられる自殺が増えているという。

 防衛省は、今回の「事故」を契機に自衛隊組織内の問題点にメスを入れるべきである。そのためにも、海自警務隊には、「身内に甘い調査」と批判を浴びないよう厳格な捜査を求めたい。

毎日新聞 2008年10月16日 東京朝刊

社説 アーカイブ一覧

 

特集企画

おすすめ情報