NHKが経営計画を決定した。地上波のデジタル化への移行が完了するのを待って12年度から受信料収入の10%を原資に値下げを行うという。
受信料の値下げをNHKが決めるのは初めてのことだ。とはいえ、民間企業であれば、合理化でこの程度のコスト削減を行うのは、当たり前のことだろう。
しかし、NHKにとっては、これでも、大変なことだったようだ。決定に至る過程は、ぎくしゃくした。
NHKの執行部は7日に、12年度の収支見通しを示し、同年度以降の値下げを提示した。しかし、下げ幅や実施時期は盛り込まなかった。これに対し、NHKの経営委員会は、「10%程度の一律値下げは可能」と主張し、経営計画の議決を見送った。
再審議を14日に行ったが、執行部が方針を変えなかったため、経営委員会は「受信料収入の10%を原資にした値下げ」を盛り込む修正動議を行い、賛成多数で議決した。
04年に発覚した元チーフプロデューサーによる番組制作費の着服に続き、カラ出張や架空飲食費請求など未発表の不祥事が次々に明るみに出てきた。
受信料の不払いが相次ぎ、政府にとってNHK改革が大きな課題となった。そして、支払い義務化で国民の理解を得るには、受信料の大幅な値下げが必要ということから、06年6月に竹中平蔵総務相(当時)の私的懇談会が、受信料を大幅に引き下げたうえで支払いの義務化を提言した。
翌07年1月には菅義偉総務相(当時)が、支払い義務化と合わせて2割程度の値下げを求めた。NHKの執行部は7%の値下げを盛り込んだ経営計画をまとめたものの、経営委が承認せず、持ち越しになった。
そして、本来なら昨年9月に議決されるはずだった計画は、1年以上遅れ、ようやくまとまった。しかし、NHK改革の実行プランである経営計画の策定をめぐって、受信料の値下げ問題ばかりに焦点が当たったのは残念なことだ。
ネット配信や国際放送の拡充、数多くの問題が指摘されている子会社も含め、公共放送としてのあり方について十分な議論が行われたのか疑問が残る。
計画には、番組制作の委託先について、NHKの子会社と一般の番組制作会社との競争促進を盛り込み、5年後をめどにグループ会社以外への委託を25~30%にし、現在17ある子会社も12、13社に削減するという。
経営の透明性を高めるための措置というが、これで十分なのだろうか。
NHKが公共放送としてあるべき姿を実現することがNHK改革の目的だ。受信料をある程度引き下げれば、受信料の義務化を国民が納得するといった単純なものではないことを、改めて指摘しておきたい。
毎日新聞 2008年10月16日 東京朝刊