派遣雇用で働く人や求職者100人を対象に面談アンケート調査を京都新聞社が実施した結果、正社員になることを望む男性は7割を超え、女性は5割だということが分かった。全体の8割が派遣雇用による不安定さや賃金に対する不満を抱いていた。「多様な雇用の受け皿になっている」という派遣業界の主張とは異なる実態の一端が浮かんだ。
労働者派遣法の規制強化が議論されるなか、京都府や滋賀県の7市1町にある派遣会社などに賃金の受け取りや登録手続きで訪れた男性42人、女性58人から回答を得た。
「正社員化を望むか」との問いには、「望む」が59人で、「望まない」24人、「どちらともいえない」17人を大きく上回った。望む人は男性が31人で、女性は28人だった。
正社員化を望む男性の中には「結婚など生活設計がたたない。安定した仕事がほしい」(30歳男性)と切実な声があった。
「望まない」女性の場合、「正社員の時にサービス残業続きで精神的に不安定になった。派遣は勤務時間の融通が利き、重圧なく働ける」(26歳女性)と派遣を活用する人がいる一方、「正社員は最初から無理。子育て、家事と両立しながら仕事がしたい」(30歳女性)と正社員になることをあきらめている人がいた。正社員として就労経験のある人は71人だった。
派遣雇用に関して納得がいかない点があるか尋ねたところ「雇用の不安定さ」を挙げる人が33人で最多。「派遣会社の対応」19人、「賃金」18人、「派遣先の対応」11人、「行政の対応」1人と82人が不満に言及した。「特になし」は8人だった。
■「派遣社員は使い捨て?」不信感にじむ
いつ仕事を切られるか怖い。京都新聞社が実施したアンケート調査結果からは、派遣雇用で働く人や求職者一人一人の閉塞(へいそく)感や不安がにじんだ。正社員への足掛かりをつかめずに将来像を描けない。苦悩する姿があった。
「育児休暇を終えて職場復帰した正社員の人件費が高くついた。派遣社員を雇う余裕がなくなった」。草津市の女性(45)は3月末、派遣先である滋賀県内の化学製品製造会社から、雇用の打ち切りを告げられた。
3カ月、1年、6カ月。細切れの契約更新を繰り返し、同じ職場で勤続年数が3年を超えた昨年末、派遣先に直接雇用を申し入れた。しかし回答はなかった。打ち切りとなったのは「せめて時給を上げて契約更新してもらえないか」と相談した矢先のことだった。「派遣は使い捨てなのか」と不信感を抱く。
「数が足りん、これで我慢しろ」。作業台に軍手が放り投げられた。機械部品業の現場で働く京都市伏見区の男性(33)に支給されたのは、自分だけ滑り止めのない安物だった。重い部品が握りにくく、足に落とすとけがをする。「おれはいらんということか」と頭によぎった。
契約が更新されるのか、派遣先の上司の顔色をうかがうようになった。業務で交わす会話の口調、しぐさの一つに敏感になる。「あかん、切られる」とびくびくする。
自動車部品会社で3カ月、ガラスメーカーで6カ月。1カ月単位の雇用契約を更新しながら、派遣先を転々とする。仕事に慣れたころ、雇用は途切れる。3年数カ月、その繰り返しだ。
伏見区の女性(34)が短大を卒業したのはバブル崩壊後の就職氷河期だった。就職活動をしたが、正社員の内定は得られなかった。卒業後はパート勤務を経て派遣で働き出して10年になる。
短期の仕事ばかりやってきた。勤務日数が足らず、社会保険には加入できない。昨年6月以降は仕事に就けていない。ネットカフェ難民は、すぐ隣にある世界と感じる。
「正社員になりたい」。自分の履歴書には短期派遣の経歴しか書けず、気後れする。「経験者のみ」という求人広告の文字に焦る。パソコンを学ぼうと職業訓練校の説明を聞きに行ったが、倍率が高くて受講できない。
安心して、誇りを持てる暮らしへの出口が見えない。
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