「研究というのは、一つわかると四つわからなくなる。すぐにわからなくても何十年か先に成果が得られる。だから努力は無駄じゃない」。フグ毒研究の第一人者・野口教授は、40年以上にわたる研究生活を振り返り話してくれた。
41歳の時、農水省からバイ(食用貝)の食中毒の原因を調べてほしいと依頼された。それから長い年月をかけ、ハゼ、バイ、カニ、ヒトデなどさまざまな魚介類からとれる毒がフグ毒と一緒であることを突き止めた。「食物連鎖の中にフグ毒が存在している」ことを発見したのだ。大学生の時に始めたハゼの毒の研究から何十年かしてフグにたどりついた。
「苦労したのは、毒をいかに結晶化するか。毒物を結晶の形で取り出さないと、同じ毒だと証明できない」。当時、困難とされた結晶化を実験、工夫を重ねて成し遂げた。
フグ毒が、フグが食べる自然のエサから来るのなら養殖法を工夫すれば無毒化できるはず。この発想から「無毒トラフグ」を誕生させた。
貪欲(どんよく)な探求心を持つ教授の次なる目標は? 「フグをフォアグラに代えて世界3大珍味の仲間入りさせること。フグはフォアグラより栄養もあるし、おいしいからね」。笑顔で夢を語った。【東京医療保健大・江口日来、写真は立教大・岡田翔】
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■人物略歴
東京大学農学部卒業、長崎大学教授などを経て04年から現職。「フグはなぜ毒を持つのか」など著書多数。
毎日新聞 2008年9月19日 東京夕刊