きょう十五日から第六十一回新聞週間が始まる。「新聞で社会がわかる自分が変わる」が今年の代表標語だ。
作者は島根県の大学生で、「新聞は就職活動の変化や企業の動きなど一度にいろいろなことが分かるので便利です」という。一覧性、解説性といった新聞の特性に着目した標語であり、これらの特性を生かした新聞編集の大切さを、われわれ作る側にあらためて思い起こさせてくれる。同時に、新聞を読まなくなったと指摘される若者たちからの、新聞への期待のメッセージとも受け止めたい。
ここ一週間の紙面を見ただけでも、いろいろなニュースが駆けめぐっている。世界的な株価の大幅下落は各国を震撼(しんかん)させ、対応策に追われている。国内では景気対策のための予算が臨時国会で審議中だが、衆院の解散・総選挙の時期をめぐって与野党の駆け引きが激しい。ノーベル物理学賞・化学賞での計四人の日本人受賞は六年ぶりの快挙で日本中を沸かせた。一方で、格差拡大を背景にしたショッキングな事件、年金や医療制度の行き詰まりが生活や将来への不安をかき立てる。
私たちの住む地元のニュースも一面を飾った。向こう四年間の岡山県のかじ取り役を選ぶ知事選が告示され、二十六日の投票日に向けて舌戦たけなわだ。県都の岡山市は来春、全国十八番目の政令指定都市移行が閣議決定した。
最新情報が随時得られるインターネットには及ばないが、世界から身近な地域社会まで、大変動の時代を網羅する写し絵としての役割が、紙の媒体である新聞の持ち味だ。見出しだけをざっと見ても、何が起きているかはわかる。本文を読めば、その時代背景や意義などを詳しく知ることもできる。時に思わぬニュースに遭遇して、新たな世界が開けるかもしれない。
来年創刊百三十周年を迎える山陽新聞社は創刊以来、「地域とともに」の姿勢を掲げてきた。平成の大合併で市町村が再編され、地方分権が進む中、中央に頼らない独自の発想による地域づくりがますます求められている。変ぼうする地域の中で地方紙として新たな覚悟で、地方の視点に磨きをかけたい。
また、支社支局の取材網は地域に密着した新聞作りの前線基地だ。倉敷支社を移転し、県西部の拠点として体制強化した「倉敷本社」を十四日、開設した。きめ細かい取材を進め、地域のさまざまな声を掘り起こしていきたい。「社会がわかる」。そして「地域がわかる」新聞作りへ一段とまい進したい。
浜田靖一防衛相が、広島県江田島市にある海上自衛隊第一術科学校で起きた二十五歳男性三等海曹の死亡事件で、三曹が一人で十五人を相手に徒手格闘をさせられたことに「特殊、特別な気がしないでもない」と語った。海自側は「訓練中の事故」としていたが、防衛相が訓練の範囲を逸脱しているとの認識を示したといえよう。真実を解明しなければならない。
三曹は九月九日、海自の特殊部隊「特別警備隊」隊員を養成する訓練として十五人と代わる代わる格闘をさせられた。十四人目からあごにパンチを受けて意識不明となり、約二週間後に亡くなった。
海自呉地方総監部は事件当日と死亡翌日に広報したが、三曹が十五人を相手にしていたことなどは公表していなかった。第一術科学校では、七月にも別の隊員が十六人を相手に格闘をさせられ、歯を折るなどの負傷をしていたことも判明した。
徒手格闘は自衛隊独自の格闘技で、防具やグローブを着けて闘うが、海自などによると多人数を相手にする格闘訓練は養成課程の通常科目に含まれていない。教官らは三曹の遺族に対し「(異動の)はなむけのつもりだった」と説明している。三曹は特殊部隊の養成課程を中途でやめ、潜水艦部隊への異動を控えていた。負傷した隊員も、異動直前だった。
浮上するのは、養成課程をやめる隊員に対する訓練名目での制裁疑惑だ。集団暴行が常態化していた疑いもわく。
杉本正彦呉地方総監は、二件以外に同様の事例はないと語っているが、徹底的な洗い直しが欠かせない。海自警務隊は傷害致死容疑などで、教官らから詳しく事情を聴いている。再発防止のためにも厳正な捜査と原因の究明が重要だ。
(2008年10月15日掲載)