しゅうりりえんえん「みなまた 海のこえ」より
ゆうきすいぎん(有機水銀)
組曲構成 1しゅりがみさま→2ふるさと→3はかい→4うたげ→
5たんじょう→6ゆうきすいぎん→7ばんか→8ひかりのたき
石牟礼道子:作詞  荻久保和明:作曲

初めに この曲は組曲「しゅうりりえんえん」中の1曲なのですが、前にある曲「たんじょう」をあらかじめかじってから聴くと悲痛感が間違い無く5割はアップすると思います。「たんじょう」は生命の誕生を皆で喜ぶような歌で、次の「ゆうきすいぎん」でそのなにもかもが崩れていってしまうのです。
こちらのページでたんじょうが聞けます。更にこっちのページでは「たんじょう」をハイライトのみ聞けるようにしてありますので是非是非ご覧下さい。

1953年、熊本県水俣市で水俣病という病気が発症、蔓延します。日本史上に残る四大公害の1つで、小学校の社会の時間に習ったような記憶があります。手足がふるえたり視界が狭くなったり、他にろれつが回らなくなる、動きが不自然になる等の症状が出るそうです。またこの水俣病は、脳や神経が直接壊されてしまう病気で、治りません。リハビリ等で表面に出る症状を軽減させることは可能ですが、1度壊された神経が戻ることは無いため、根本的な治療は一切できないのです。重い人は死んでしまうこともあります。そうでなくても、日常生活に大きな障害が残ります。
また、何の用心も対策も無かった初期の頃は、狂うように動き回る状態や意識不明になり間も無く死ぬ人が数多くいたそうです。

原因は工場が海に流した排水に含まれていた有機水銀です。水俣市は漁業が大変さかんだったので、有機水銀を含んだ魚や貝を多くの人間や動物が食べてしまったのです。
有機水銀は実は人体の中に入っているもので、ごく少量だと無害なのですが、体内である規定値に達すると猛毒になります。この事件では海に流れた有機水銀をプランクトンが食べる→プランクトンを小魚が沢山食べる→小魚を大きな魚が沢山食べる そのうちに生物濃縮で大きな魚の体内にはものすごい濃度の有機水銀が蓄積され、それを人間が食べたので患者が沢山出たのです。
(後に1942年に初の水俣病患者が出たことが解りましたが、騒ぎになったのは1953年かららしいです。)


で、この合唱曲の物語は水俣市のある家族に「ちよちゃん」という赤ん坊が生まれて、家族みんなで喜んでいたのですが、間もなく赤ん坊が水俣病にかかってしまうのです。歌はおそらく一家のおばあちゃんの語りではないかと思われます。

それでは「ゆうきすいぎん」聞いてみて下さい。ドン!

ネットサーフィンしながら聞くのをオススメします。

歌詞(合唱版)
あのころはよかった。ほんのしばらくのあいだじゃった。
ちよはおっぱいものまずに、こうまか(小さい)手足をもやもやさせて、
背なかは、弓のごつさせて、昼も夜も泣きつづけじゃった。
−どうした、ちよちゃん、どうした。
どこが痛かか、いうてみれ。
ちよは赤子で、ものがいえん。
みんな、つろうして、赤子といっしょに泣きよった。
六か月たったら、虫のなくような、かすかな声になって、
それでもまだ、なきづつけじゃった。

あっちの病院、こっちの病院、
医者さまにも、十人ぐらいみてもろた。
おいのりさんにも、いのってもろた。
井川で水をくみくみ、おぎん、おまえにもたずねてみた。
夜なかにおまえがあらわれて、首をふった。
もどってみたら、ちよは、ぶるぶる、ふるえておったが、
目ぇあけたまんま、死んでしもうた。
目ぇつぶれ、目ぇつぶれ、
仏さんになったけん、目ぇつぶれちゅうても
つぶらんじゃった。

神さま神さま、どうしたわけでございますか
夜ひるねらずにかん病していた、ちよの母さんが、病気になりました。
ちよとそっくり、いや、まだおそろしか。キリでめちゃくちゃさすように、
頭が痛いと泣きよります。ものもいえず、茶わんもにぎれず、
歩きもならず、空(くう)をつかんで、
背中でぎりぎりまわります ぎりぎり ぎりぎりまわります。
神さま神さま たすけてください、神さま
医者さまのくすりはなんにもききません。
おぎん おぎん たすけてくれい おぎん おぎん たすけてくれい
いのっておったら、やせおとろえたおまえがあらわれて、しっぽをふった。
嫁は、びくん、びくんとふるえて、死んでしもうた。

つづけて、じいさまと、ちよの父親が病気になった。−神さま
わたしたちは悪いことは、なんにもしないのに、なして、なしてこういうめにあうのですか。

わが家ばかりでなく、となりも前も、この村ばかりでなく、
あっちこっちの村は、死人がつづいて、大そうどうになった。

ミナマタビョウ ユウキスイギン チッソナガシタ ミナマタビョウ 
ユウキスイギン チッソナガシタ ミナマタビョウ ユウキスイギン チッソナガシタ
タクサンノドク サカナヤカイ ニンゲンガタベル タクサンノドク 
サカナヤカイ ニンゲンガタベル タクサンノドク サカナヤカイ ニンゲンガタベル


※おぎんは町のきつね。神の使いで精霊みたいなもの。

ちよちゃんが病気になり家族の祈りも空しく死んでしまい、何と間も無くお母さんまでも発症。お母さんは特に酷い初期型の水俣病のようで、気が狂うようになって死んでしまいます。そしておじいちゃんとお父さんも・・・と、お婆ちゃんを除いた家族全員に恐ろしい水俣病がふりかかってしまったのでした。

曲は極めておどろおどろしく、じわりじわりと毒牙を広げていく水俣病を強烈に描いています。管理人、CDで初めて聞いた時、突然曲がアップテンポになって 神さま!神さま!どうしたわけでございますか 夜ひるねらずにかん病していた ちよの母さんが 病気になりましたと歌われた所でかなりゾクッとなって、母親が罹ったこともショックでしたしずっと心臓がドキドキしたのを今でも覚えています。壮絶です。
また他に個人的に怖いと思った所は、グォーン・・・と迫ってくるつづけて、じいさまと、ちよの父親が病気になったの部分はもちろん、
ベースの歌うあっちこっちの村は、死人がつづいて、大そうどうになった死人がつづいての部分!ここはもう相当恐ろしいです。

うーん、この曲に全くの無知識の状態で歌詞を聞き取りながら演奏を聴いてリアルタイムで「ちよちゃんどうなったの?  ああ死んじゃったんだ・・・  ええーっ!次はお母さんが!!」となるのが1番怖いと思うのですが、 このページ見た方は・・・歌詞見ちゃってますもんね・・・。合唱友達に黙ってCDだけ貸すのをオススメします(笑)。

原作の絵本が凄い
管理人は「このページを作るために一応」、と思って原作の絵本「みなまた 海のこえ」を図書館で借りて読んでみたのですが、これが!この絵に想像以上に心を動かされました!紙一杯によだれを垂らしながら死ぬゆく人々が描かれていたり、母親が体がねじれて死んでいたり、もう凄惨というか無茶苦茶というか、水俣病の怖さが痛いほど伝わってきます。
あと、この絵本は半分が「神の使い、きつねのおぎん」が主人公になっていて妖怪や動物達も沢山出てくるのですが、ちよちゃんのお葬式のシーンではこの物の怪達も村の人々と一緒にちよちゃんの死を悲しんでくれているんです。参列の中にひょっこりまぎれて並んでしゅんとしている妖怪に、心が切なくなりました。
そして、そして、ああそして、1番衝撃的な絵が裏表紙! ここにはまだ平和だった夫婦の光景が。お母さんのおなかに耳をあてて「あっ赤ちゃん動いた!」と喜ぶお父さん。二人とも幸せそうに微笑んでいます。これはマジで凄いです。涙腺直撃です(特にお母さんはこの平和な時の絵と死んだ時の絵が全然違います)。
話題にもなった絵本らしく市立県立図書館にはあるかもしれないので、是非立ち寄ってみた時辺り、読んでみて頂きたいっ!

Top  Main  History