三菱UFJフィナンシャル・グループが13日、米モルガン・スタンレーへの出資を全額優先株に切り替え、前倒しして払い込んだのは、深刻な金融危機の最中の「苦肉の策」と言える。モルガン株が急落し、当初計画通りに普通株でも出資すると、巨額の損失を抱え込む恐れがあった。一方で出資を撤回すれば、モルガン破綻(はたん)の引き金を引くことにもなりかねなかった。
三菱UFJが先月29日に発表した計画は総額90億ドル(約9000億円)の出資のうち30億ドル(約3000億円)でモルガン普通株を取得する予定だった。普通株には株主総会での議決権があり、モルガンが得意としてきた投資銀行業務で提携の成果を得たい三菱UFJが一定の発言力を確保する狙いだった。
だが、普通株の取得予定価格が1株25・25ドルと計画を発表した時点のモルガンの株価をやや下回る水準だったのに対し、その後の金融危機の深刻化で、先週末の10日には9ドル台まで暴落した。
株価が取得時の半分以下に値下がりすると損失計上が必要になり、株価が9ドル台のままなら、三菱UFJは出資と同時に2000億円近い損失を抱える恐れがあった。株主代表訴訟の対象にもなりかねず、市場では「三菱UFJが出資を見送るのではないか」との観測が飛び交った。
だが、三菱UFJにとって「出資撤回という選択肢はありえなかった」(幹部)。三菱UFJは9月、米地銀、ユニオンバンカル・コーポレーションに約3800億円を投じて完全子会社化し、米国事業強化を打ち出した。出資撤回でモルガンが破綻すれば、さらなる金融危機を引き起こしかねないばかりか、危機収束に必死になっている米当局との関係が悪化し、米国事業の展開は困難になることも必至だった。
三菱UFJは当面の損失リスクを回避し、「優先株でもモルガンとの戦略提携を進める方針は変わらない」としている。だが「投資銀行業務の回復には時間がかかる」との見方は根強く、三菱UFJの巨額投資が思惑通りに実を結ぶかは予断を許さない。【斉藤望】
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■ことば
普通株は株主総会での議決権がある通常の株式。上場企業の場合は株式市場で売買され、株価は業績を反映し大きく変動することがある。優先株は議決権がない代わりに、普通株に比べて配当利回りなどで優先される。価格は発行時に発行企業の資産内容などをベースに理論的に算出されるが、高利回りのため普通株より価格が高くなるのが一般的。優先株は上場企業でも市場で取引されないため、価格の変動は普通株より小さい。
毎日新聞 2008年10月15日 東京朝刊