7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議で合意した行動計画に沿い米欧各国は金融機関への資本注入を柱とする緊急対策を矢継ぎ早に具体化した。日本も金融市場の安定化策を示し、緊急の政策協調が始動した。不信の連鎖に歯止めはかかったが、これは金融危機を克服する道筋の出発点にすぎない。一段と実効性を高める努力を続けてほしい。
週明けの世界株式市場は主要国の政策当局による素早い行動を好感した。13日に大幅高となった米欧主要市場とともに、3連休明けである14日の日経平均株価も14%を超す過去最大の上昇率になった。
銀行間の不信解消狙う
市場に意外感を与えた大きな要因が、欧州諸国の強力な政策協調である。週末にパリで単一通貨ユーロを採用する15カ国の緊急首脳会合を開き、ドイツ、フランス、イタリアが相次ぎ資本注入策を発表した。英国を含めた欧州主要国の注入規模は約37兆円にのぼる。証券化商品などに関連した巨額損失の処理に伴い、欧州主要行の自己資本が不足する懸念が強まっており、大胆な資本注入が求められていた。
より即効性が期待できるのは、機能がマヒしていた銀行間取引市場を回復させるため、欧州各国が取引に対する政府保証を付けることだ。民間銀行は互いの損失や資本の傷み具合が分からず、貸し倒れを恐れて資金を極端に出し渋っていた。政府が債務を保証することで銀行間市場への安心感が生まれ、異常な高金利の取引や資金繰り難を改善できる。
ブッシュ米大統領も2500億ドル(約25兆円)と欧州並みの規模の公的資金注入を発表した。不良資産の買い上げ財源として金融安定化法で確保した7000億ドルの公的資金の一部で、金融機関の優先株を買い入れる。無利子の預金全額を保護対象にしたり、銀行の新規債務に政府保証を付けたりして、金融システムの不安を鎮めることを狙っている。
潤沢な資金供給でも日米欧の5つの中央銀行が緊密な協力を打ち出した。銀行が資金を融通する短期金融市場を通じて、金融機関の差し出す担保の範囲内なら事実上、無制限にドル資金を貸し出すことになった。これで銀行間の不信によるドルの資金繰り難は大幅に緩和される。
日本は日銀による大量の資金供給に加え、地域金融機関に対して予防的に公的資金を注入できる金融機能強化法の復活を表明した。生命保険会社の安全網である生命保険契約者保護機構に2009年4月以降も公的資金を投入する方針だ。
米国に端を発し、世界に未曽有の速度で広がった金融危機に対し、米欧日の金融・通貨当局が歩調を合わせ、極めて迅速に対策を打ち出した。三菱UFJフィナンシャル・グループによる米モルガン・スタンレーへの出資が前倒しで完了したことも好感され、週明け13日の大半の米欧市場はほぼ10%を超す株高となった。日経平均株価も14日終値で先週末比1171円(14.15%)高い9447円をつけた。
ただ、株価急落に背中を押されて米欧日が示した金融混乱の沈静化策だけで、市場の不安を一掃できるかどうかはなお不透明だ。実体経済への悪影響が及ぶのもこれからだ。金融安定化の実効性が一段と高まるよう、各国は細心の注意をして対策を実行に移していくべきである。経済そのものを強くする施策にも十分な目配りをする必要がある。
資本注入の規模拡大も
金融危機によって金融機関から経済へのお金の流れが細る信用収縮が起き始めた。急激な株安なども加わり、企業や個人投資家、そして消費者の景気に対する見方は弱気になりつつある。金融機関や金融市場の混乱を収めるだけでなく、世界で同時に進む景気減速を深刻な景気後退にさせないよう、主要国と新興国を含めた政策の協調が不可欠である。
特に危機の震源地である米国の責任は重い。主要な金融機関が抱える潜在的な損失額はいまだに正確な把握が困難であり、最終的な資本不足がどの程度になるかもわからない。今回表明した25兆円規模で十分かどうかをいち早く検証し、足りなければ資本注入の規模を拡大することもためらうべきではない。資本注入に伴い、経営陣の報酬カットなど一定の責任が問われることも、国民の理解を得るために不可避だ。欧州にも同様の対応を期待する。
日本は金融危機の直撃を免れ、金融システムも比較的安定しているが油断は禁物である。地域金融への資本注入など安全網を整え、中小・零細企業への資金供給が滞らないように手を打つ必要がある。経済の悪化にも機敏に、的確な対処策をとってほしい。国際機関による最新の経済見通しによると、金融危機が世界経済に及ぼす悪影響は従来の予想以上に大きくなる。国際協調の成否が問われるのはこれからだ。