なんと了見の狭い人たちの集まりだろうか。
プロ野球実行委員会は国内の新人選択会議(ドラフト会議)での指名を拒否して海外のプロ球団と契約したアマチュア選手に対し、海外球団を退団後も一定期間、日本のプロ野球入りを認めないことにした。
日本のプロ球団の誘いに応じないアマチュア選手に将来、ペナルティーを科そうということだ。有力選手の相次ぐ海外流出で、プロ球界が危機感を持つのは当然だろうが、若者の夢に平気で横やりを入れる感覚には首をかしげたくなる。
日本のアマチュア野球はプロ野球の下部組織でもなければプロの養成機関でもない。そこで実績を残した選手がその先、どこで野球を続けようが本人の自由である。日本のプロ球団に束縛されるいわれはない。
おかしなルールを急ごしらえで用意したのには理由がある。今夏の都市対抗野球で横浜市・新日本石油ENEOSを13年ぶりの優勝に導き、MVPに相当する橋戸賞に輝いた田沢純一投手が大会後、米大リーグ挑戦の意思を表明、日本のプロ球団にドラフトで指名しないように求めた。
1位指名確実とみられていた田沢投手からの「断り状」に12球団はあわてた。日米のプロ野球組織間で選手の移籍を巡る取り決めはさまざまあるが、ドラフト前のアマチュア選手の獲得には明文の規定はない。
田沢投手の引き留めに失敗し、考え出したのが今回のペナルティーだ。球団エゴむき出しで「あとで泣きを入れても知らないぞ」と脅しているようなものではないか。しかも田沢投手の意思表明後、後付けでルールを作り、田沢投手にも適用するというのはフェアではない。田沢投手は除外すべきだ。
大きな夢を見るのは若者の特権だ。その度量すら12球団は持ち合わせていないのだろうか。仮に大リーグで挫折しても日本でのプレーを見たいファンも多い。「そのときはどうせルール破りをする球団が出て、骨抜きになる」と見越しているのなら話は別だが。
国内の有力なアマチュア選手が日米の争奪戦になったのは田沢投手が初めてではない。10年前、大阪体大の上原浩治投手(現・巨人)は大リーグからも誘いが掛かった。最終的に上原投手が巨人を選択して決着したが、この時点でアマチュア選手の獲得をめぐり、大リーグや国内アマチュア組織とルール作りに着手していれば、今回のドロナワ的な対応は防げたはずだ。黒船は突然やってきたわけではない。
資金力に勝る大リーグに勝手放題を許すわけにもいかない。幸いプロ野球は7月、新コミッショナーに日米の野球に造詣の深い前駐米大使の加藤良三氏が就任した。日米のプロ・アマ球界にプラスとなる制度を早急に作り上げるべきだ。
毎日新聞 2008年10月15日 東京朝刊